『イヴ・サンローラン』@よみうり大手町ホール

東山義久と海宝直人という個性・魅力が全くと言っていいほど異なる二人がダブルキャストとしてイヴ・サンローランを演じるということで、「二人を見比べる」という目的9割で両バージョンのチケットを取りました。

繰り返しますが全くタイプの違う両者が同じ役をどう演じるのか、それぞれのアプローチの仕方を見比べることを楽しみにしていましたが、恋人であるピエール・ベルジェが、ココ・シャネルやクリスチャン・ディオールと言ったファッション界の大スターたちが英霊としてイヴを「語る」(ことでイヴ・サンローランという人物を描く)という構成なので(それを演じる)語り部たちが同じであったことも理由ではあったのかもしれませんが、両バージョンに思ったほどの、そして期待したほどの「違い」はなかったように思います。
でももう一度繰り返すけど(しつこいと思われるでしょうが、何度も言いたくなるぐらいほんっとにぜんっぜん違うんで)、公式の言葉を借りると「類稀なる身体能力で魅了する東山義久」と「圧倒的な歌唱力で人気の海宝直人」であるわけで、 そんな二人のイヴがあんまり変わらないってのはそれはそれですごいこと。

立ってるだけで華やかな東山さんは演出家の荻田さん曰く「オラオラ感」を封印した弱くて脆くて儚いイヴであり、清潔で凛としてまるで竹のような海宝くんはどこにそんなエロスが!?と戸惑うほどくねくねさせた全身から色気を放出する妖しく破滅的なイヴで、両者のアプローチは真逆といっていいものだし、なんなら東山さんのアプローチは海宝くんにイメージするものだし海宝くんのアプローチは東山さんの得意分野と言っていいだろうに、それをわざわざ逆にすることで完成した東山イヴであり海宝イヴは思いのほか「近かった」。これがこの作品最大の驚きであり収穫でした。

海宝くんの歌を聴いたがゆえに東山さんよくこの歌を歌えたな!と思ったし(さすがに歌いこなせたとは言えませんが)、アンディ・ウォーホールと出会って以降のどんどんと壊れ酩酊する東山さんの踊りや身体の動きを見てるがゆえに海宝くんよくこのレベルまでエロさ出したな!と思ったし、はっきり言って二人ともニンではない役を東山さんは自分の武器を抑えることで海宝くんは自分の何かを解放することで、この作品における「イヴ・サンローラン」を作り上げた。演劇の面白さっていろいろあるけど、こういう面白さは初めて経験するもので、とても興味深い観劇となりました。

まあそれ以外は正直よくわかんなかったんだけど。

イヴとピエールとあとディオールもかな?その三人と狂言回しポジションである女の子以外は一人何役かをこなすんだけど、だいたいなんとなくは分かるものの何人か「この人誰?(何?)」ってなったし(別にわからなくても問題はない)、同じ(ような)場面・曲がリプライズではなくそのまんま繰り返されることが何度かあって、マラケシュに住みたいって何回言うねん・・・と思ったし、イヴが登場するオープニングのシーンが白い階段状のセットの一部がクルっと回って安っぽいタイルとちゃちい噴水の側に座ってるってなシーンでして、ここからもう「え?なにこのチープ感・・・」ってなりましたからね。このまるでドリフのコントみたいな噴水なんの意味があったの・・・。

衣装はギリギリ許せるとしても(ルルの衣装以外)、劇中で出てくる布や小道具がことごとくチープなのが意図的なものなのか予算的な理由なのかすらわからず、最後に狂言回しの子が宝塚みたいな恰好で出てきたのにはド真顔にならざるを得なかったです。なのでイヴとピエールの記憶以外は抹消することに決めました。そこだけ覚えていればたぶん充分。

最初に見た東山イヴVerではピエール役の大山真志さんの図体(スタイルや体形ではなく「ずうたい」と表現したい!!)にお前これからアルターでマシューやるんじゃろうがい!そんなトドみたいな腹でマシューとか許さん!とワナワナしましたが、海宝イヴVerでは大きなまさしピエールが小さくて華奢な海宝イヴを抱きしめるのに「折れちゃう!」とハラハラしながらも「こっ、壊してまさし!その子を壊しちゃってまさし!」と興奮するというアンビバレンツな感情に襲われ、イヴの浮気相手が美しく引き締まった身体つきの男たちばかりであるもんで、「ガチャ」ってドアを開け(この音がベタすぎてついつい笑ってしまった)乱交パーティを目撃してしまったまさしピエールが哀れで、結果「まさしはそのままでいいよ」という菩薩モードになりました(笑)。