堂場 瞬一『宴の前』

宴の前 (単行本)

宴の前 (単行本)

ある地方都市で4期16年知事を務めた現職が引退を宣言。跡継ぎ候補とされる人物がいるが知事はなかなか後継者指名を行わない。そうこうしているうちにその人物は急死してしまう。新たな後継者選びに奔走するなか、県出身のオリンピックメダリストで圧倒的な人気を誇る女性が知事選立候補を宣言する。

というわけで、知事選挙を描く作品ですが、何を描きたいのかわからん・・・。
政権政党をバックにつける現職と完全無所属女性候補それぞれの視点で描かれる「知事選挙」は、立場の違いからそれぞれの『戦い』の中身・性質・心情が違っていてそこは興味深く読みましたが、もう一つの視点として地元紙の記者のものがあるんですよね。この記者は現職知事の汚職疑惑を追ってるんだけど、社内でそれなりの権力者である人物が知事とべったり(というか便利な犬)だもんで知事にとって目障りな人物を黙らせるための仕事を押し付けられるのですが、この枝があまりにも中途半端で。

だってこの記者選挙のことなどどうでもいいんだもん。どうでもいいのに自分の意図しないところで現職の手先として働かされてしまい、挙句コツコツと温め育てた「ネタ」を忖度でもって握り潰されてしまうものの、知事選自体に直接関わることはなく、タブーを承知で週刊誌にネタを流したものの(物語のなかで)さしたる影響はなくって、出馬を打診されたのに身体検査に引っかかり梯子を外されてしまった人物の存在の扱いもそうだしとにかく中途半端という印象です。

そんであっけなく選挙の結果が描かれ、それはまあ「そういうもんかー」でいいんだけど、負けた女性候補が勝った現職に後継者になってくれと言われて「知事には何か裏がある」「自分の勘は正しいと信じたい」ってところで終わるんですよ。え?なにこれ?と。知事に裏があるってのは記者の視点で察せられるけど、知事視点ではそれについてはっきり描かれることはないんです。その『裏』の面を描くことなくそんなことを言われても、そんなところで終わられても、「だから何?」としか思えない。女性候補も記者も「俺たちの戦いはこれらかも続く」にすらなってない。これで続編がなかったらただ単に知事選を描いただけの話でしかないんだけど。