ミュージカル『タイタニック』@日本青年館ホール

好きなキャストが何人も出演するので観たいと思ったもののスケジュールが合わなくて前回のタイタニックは観られず、今回が初めてです。

評判に違わぬ見事な群像劇でした。巨大豪華客船タイタニック号の物語と考えるとそう多くはないのかもしれませんが、それでも舞台上には結構な人数がいるわけですよ。それが全員横並びで物語を作ってる。誰かの物語ではなくそれぞれの物語で、それがあっという間に海に呑みこまれてしまう。まさに群像劇これぞ群像劇といった感じで、非常に見応えがありました。お目当てキャストはいるんだけど(だから今回はなんとしても観たかった)、いつもはお目当てキャスト中心の視野が今回は自然と意識せずとも全体を見ていてですね、わたしはこういう観劇も出来るんだと発見できたことが嬉しかったりして。

いつもどんだけロックオンなんだよってな話だし、とはいえわたしのお目当てはスタイル抜群だもんで兼役でもひと目で判ってしまうのでやっぱり視線が追いはするわけですがw。本役時のスーツ姿だけでも充分すぎるほど素敵満タンなのに1等船客役時のタキシード姿がカッコよすぎて和樹と並んだ瞬間とか脳内でシャッター高速連射したわw。

どうやって感想を書きだそうか考えた末、関係性を踏まえつつ人物(キャスト)ごとに書いていくのがいいように思うので、以下はそれになります。


まずタイタニック号の中枢を担う設計士のアンドリュース(加藤和樹)と船長のスミス(鈴木壮麻)と船主のイスメイ(石川禅)。

この三人だけは本役での出演のみで兼役はなさらなかったと思うのですが、最大の見せ場であるタイタニックが沈むことが判明しての責任のなすりつけ合いは聴き応えがありました。言ってること(歌ってること)は胸糞悪い責任逃れ、責任の押し付け合いだから醜いとしか言いようがない場面なんだけど、感情をぶつけ合う三人の歌は目も耳も逸らすことを許さない吸引力と迫力で、それなのにエネルギーが切れたかのように唐突に終わることもあってなんとも言えない虚しさだった。

その後スミスはクルーに職を解くから各自自分の考えで行動しろと言い、アンドリューは自分の設計の何が悪かったのかを見直し、そしてイスメイは救命ボートに乗った。

1等船客と女性と子供を優先して乗せようとする中、当たり前の顔をしてボートに乗るイスメイに殺意を抱いたけど、その後、生き残った者と死にゆく者全員で歌う曲でイスメイは涙を流してるんだよね(最初の曲もそうなので、これは「イスメイの語り」という意味合いなのだろう)。イスメイが流す涙の意味は後悔なのか懺悔なのか絶望なのか、劇中でそれが語られることはないけれど、イスメイを「悪」として描かないところが(それで物語を終わらせないところが)わたしは好きだ。

これ初演では壮麻さんがイスメイだったんですよね?。禅さんの鼻もちならないイスメイがどハマリしてるだけに、壮麻さんのイスメイはどんな感じだったのかすごく気になる。

そして演じるのが壮麻さんであることがイメージとして多分に影響してるとは思うのですが、なんでこの船長がイスメイの要求を聞き入れ速度を上げたりコースについての進言や再三の氷山情報を無視したりするのかが理解できなかったなぁ。ともすればイスメイよりも傲慢さが見え隠れするのでプライドは相当高そうだから誰の言うことも聞かないタイプの人間なのかもだし、自らの後をマードック津田英佑)に託そうとしてたぐらいだから“老い”もあったのかもだけど、それが理由だとしたら沈没の責任としてはこの人が一番重いように思うのだけど。

あーでもそのマードックは氷山に衝突したあと呆然自失で使い物にならなかったわけで、挙句さっさと拳銃自殺しちゃったわけで(これは逃げではなく自らの責任の取り方として命を落とす何の罪もない乗客や船員たちと同じ死に方をしてはならないってんでの自殺なのかな)、そういう意味では「見えてない」人なのかもなぁ。

スミス船長とマードックとライトーラー(小野田龍之介)は歌える人が揃ってるのに全員曲ぐらいしか歌うことがなくて、三人で歌い上げる「プライドオブタイタニッククルー」的な曲が欲しかったなー。


タイタニック沈没の「悲劇」を体現するのが乗客の各カップル。

一等船客のイシドール・ストラウス(佐山陽規)・アイダ・ストラウス(安寿ミラ)夫妻、二等船客のエドガー・ビーン栗原英雄)・アリス・ビーン霧矢大夢)夫妻にチャールズ・クラーク(相葉裕樹)とキャロライン・ネビル(菊地美香)、三等船客のジム・ファレル(渡辺大輔)とケイト・マクゴーワン(小南満佑子)。

女性(と子供)優先で救助ボートに乗せられる中、夫が乗らないなら自分は残ると、夫と共に死ぬことを選ぶ一等船客のアイダとそれを受け入れる夫に対し、ちゃっかり生き残る三等船客のジムとケイトにびっくりしたわ・・・。身分も違えば背負ってる事情も違うものの、別れと死は平等に訪れる・・・ものなのだろうから等級は関係ないのでしょうが、ボートの漕ぎ手が必要だってんで元漁師だというジムが「俺できます!」と立候補するのはいいとしてもなんでその流れでちゃっかりケイトをボートに乗せてんねんと。他のカップルがボートに乗せられたものの愛する者の側に行こうとする(必死でボートから下りようとする)のを止められてる中で、それまではミーハー丸出しで夫のことなんてさして愛してなさそうだったアリスでさえ夫と離れる(救命ボートに乗る)ことを拒んでるというのにシレーっとボートに乗っててさあ。そんな二人にストラウス夫妻が自分たちの救命道具を与えるんだよね。その後二人は船室に戻り寝間着を着替え、そして共に最期の瞬間を迎えるもんで、生きる(生きようとする)力の差とは思えど三等船客図々しい・・・とか思ってしまった。

愛する女性をボートに乗せ、タイタニックに残った男達が歌う曲は良かったわー。相葉っちのチャールズがソロを歌うんだけど、これが!とてもとても良かった!。

舞台上がタイタニックのデッキで、客席が海という演出なので女性たちは通路に居るのですが、それぞれがそれぞれの相手に向けて歌うのね。わたしの座席の真横に霧矢さんアリスが居たもんで、栗原英雄さんが「こっち」を見ながら歌うわけですよ。必死で作ったであろう慈愛いっぱいの笑みでアリスに手を伸ばすもんで、もうどうしたらいいのかわからなかったです・・・素敵すぎて・・・・・・。すまん・・・・・・。

そのあと相葉っちチャールズと藤岡くんバレットが「俺達独身のまま人生を終えるんだな」「でも良かったよ。彼女を未亡人にしなくて済んだんだから」とか言い合うもんでもう涙じくじく(その横で妻と子(まだ赤ちゃん)がいるワイドナーかな?は解きかけてた救命胴衣の紐をギュッと締め直してなんとしても生きて妻子のところへ戻るんだと決意してるのが対象的)。

「皆の衆、一杯いかがかな?」という相葉っちチャールズに栗原エドガーが「一杯じゃすまないぞ」と返し、肩をたたき合い酒場へ向かう後ろ姿に涙ダバダバ。

明確な階級があるはずなのに、あったはずなのに、この場では誰もが「ひとりの人間」でしかない。
そして今この瞬間は覚悟を決めた潔さすら感じるけれど、そのあと無線室では最後まで希望を捨てず助けを呼び続ける一方で、やっぱり蹴落しあいになるのが哀しいのなんのって。

そんな客たちと交流を持つのが一等船客客室係のヘンリー・エッチス(戸井勝海)。エドガーとライターを貸し借りする場面で一瞬見せる素顔と、沈没しつつある船内でストラウス夫妻にシャンパンを届け、君も飲まないかと言われ「まだ他にもお客様がいらっしゃいますので」と辞退する最後まで客室係を全うする姿が大層魅力的でした。


この作品で唯一と言っていいかな?心温まるのがボイラー係のバレット(藤岡正明)と二等通信士のブライト(上口耕平)との交流で、この場面はほんっとによかった。さっきからよかったしか言ってないけどよかったとしか言えないから仕方ない。上から言われるがままボイラーを回す最底辺のバレットが彼女への電信(電報)を打ってもらおうと通信室に行き孤独な通信士と心を通い合わせる様は、安らぎを感じる一方でこういう末端の船員がまさに底辺である船倉でどれほど働いていて、そして犠牲になったのだろうかとも思わせるわけで、切なさが怒涛のようにこみ上げる。

そして藤岡バレットのバレットソング!!これがもう圧巻オブ圧巻!!!。曲演出ビジュアルすべてがこんなにも藤岡くんにガチっと嵌ることはそうはないだろう。冗談じゃなしに藤岡正明の歌うバレットソングを聴けただでチケット代の元が取れましたわ。


タイタニック号の沈没後、生き残った者達が事後説明をする場面があるんだけど、そこでその背後に幕が下りそこには犠牲者の名前がズラッと書かれているのです。「犠牲者数1514人」と言われても、それがどれほどの数なのか明確に理解することは難しいけど、こうやって視覚的にドンと見せられると問答無用で突き刺さる。そして生き残った者の中に「この人もなの!?」と思う人が何人もいるんですよね。救命ボートに乗せられた女性たちだけでなく、この人もこの人も生き残ることができたんだと驚いてしまったのだけど、彼らの生と死を分けたものはなんだったんだろうなあと、なんとも言えない気持ちになりました。

そしてその死は、こんなにも多くの死は避けることができたものであるという事実。でもだからこそタイタニック号沈没事故は悲劇として語り継がれ物語となっているわけで・・・

この先をどう続ければいいのか、それを探し考えながら岐路につきましたが、結局、今でさえわたしはその言葉をみつけることができません。



それはさておき、わたしが現在のように日常的に舞台をみるようになったキッカケは相葉裕樹さんです。いまから13年前に以前の日本青年館で相葉っちの不二先輩と出会ったことで今のわたしがいるのです。

あれから13年(マジか・・・・・・)。ジャージでラケットを振っていた相葉っちはスーツに身を包み身分違いの恋人と駆け落ちする役で青年館に戻ってきました。

こんなにも見応えのある作品で、前回歌うまシュガーこと佐藤隆紀さんの演じた役を立派に堂々と歌い演じる相葉っちに、このひとを見続けてきてよかったなと改めて、わたしの観劇人生は間違ってなかったと、これまで以上に強くそう思うことができて、これぞファン冥利に尽きるってなもんです。ありがとう相葉っち。これからもずっと好きでいさせてください。