仙川 環『鬼嵐』

鬼嵐

鬼嵐

地方の町で激しい吐血と下血、眼球からも出血する謎の感染死が連続して発生する。最初に発症したのは東京の大学病院を辞め実家のクリニックを手伝っていた主人公がつい数日前に診た患者だった。という始まりで、対策チームの責任者に任命された先輩医師に請われ調査チームに加わった主人公は原因の解明・感染ルートの調べを進めるうちに「本当の犯人」に辿りつく・・・という物語です。
発生した病気の背後に誰かの思惑であり利権がある、つまりマッチポンプであったという真相含めよくあるパンデミックものではありますが、主人公の女性医師が大学病院でパワハラを受け同僚医師である夫は守ってくれず退職・離婚して生まれ育った地元に戻ってきたという設定で、発生源とされる「町」の人間と密接な関わりがありながら一方でその調査をするチームの人間でもあるという板挟みのような立場であることが特徴です。加えて外国人に対する偏見、東京の人間の田舎に対する蔑み、そういったものも描かれているので、主人公の設定含め今の社会が抱える様々な風潮や問題が絡みあった先のパンデミックであり、『原因不明の感染症と戦う主人公』の物語ではあるもののそれだけではないところが面白かった。