辻村 深月『青空と逃げる』

青空と逃げる (単行本)

青空と逃げる (単行本)

母親と小学5年生の息子がとある事情から東京を離れあちこちを転々とする逃避行物語です。
親子で逃げ回る理由としてまず思い浮かべるのは夫(男)からの暴力ですよね。そして次に借金。その場合、そこにあるのは地獄で、その地獄から逃げるという意味合いになると思うのだけど、この作品の「とある事情」はその種のことではありません。少なくとも地獄まではいってない。だから逃げ回ってはいるもののそこまで差し迫った感じはない。それどころか逃げた先々でいい人に出会い、母は母で息子は息子で変わり成長していく物語なので、逃避行してはいるけど前にしか向かってない。それはやはり逃げてる事情が事情だからなわけで、このさじ加減の巧さが辻村さんが「売れる理由」なのだろう。
新聞で連載されていたものだそうで、それはつまり“ありとあらゆる人”が読むものであるわけで、だからだろうか震災のことがちょっとばかり描かれるのですが、その絡め方もまた絶妙で、誰もがその情景を浮かべてホロっとしてしまう、できてしまうだろうわけで、そういうものをさりげなく物語のなかに組み込める辻村さんの技量を改めて思い知ることができました。