スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』@新橋演舞場

観てる最中はそれが「特別なこと」だなんて思わないほど右近ルフィが安定していたのだなと猿之助さんの千穐楽挨拶を聞いて思ったわけですが、無事に幕が下りてほんとうによかった。
猿之助さんが事故に遭われてから暫くは観劇しながら頭の片隅には常に「危険と背中合わせ」という意識があって、そういう意味で派手な演出を心から楽しめたとは言い難かったりしたわけですが、いつからかわからないけどいつの間にかそんな意識はなくなってて、素直にワーキャー観られるようになってたことに千穐楽で気がついたぐらい、キャスト変更による影響を感じなくなってた。
それだけに、千穐楽公演のエースを見事助けたとジンベエに言われたルフィの「やった?やった?やったあああああああああああああああああ!!」はもうルフィというより右近くん自身の『ついにやりきった感』が溢れちゃったってな感じで胸が熱くなりました。星が浜で魂を取り戻したルフィとジンベエが抱擁するのも猿弥さんのほうが感極まってるように見えて、右近くん以下若手の頑張りが目立つし強く印象に残るけどそれは猿弥さんたち年長の役者が若手をしっかり支えてくれたからなんだよなと改めてそう感じさせられたし、またカーテンコールに登場した猿之助さんがスタッフを舞台上に呼んで讃えたことにあらわれていました。
それは兄を救おうとするルフィを後押しする仲間たちの構図と思いっきり合致してて、物語により一層の説得力を齎した。
猿之助ルフィは劇中で語られる「出会ったひと全てを巻き込む力」感があるのに対し右近ルフィは巻き込むというより「支えてあげたくなる」感があるんですよね。特に「俺一人じゃなんにもできない」というルフィの弱さは猿之助さんより右近くんのほうにより強く感じられるんだけど、それに加えて「市川猿之助の代役を務める」ことになった尾上右近という若い歌舞伎役者への期待と応援したい気持ちがあるわけで、もう完全にルフィ=尾上右近になってました。
と思うと右近くんをルフィとして若手主体の「麦わらの挑戦」という特別マチネ企画をやりたい、やらせたいと松竹に掛け合ったという猿之助さんの発案力であり実行力はさすがと言わざるを得ない。まさかこんなことを想定してのことではないでしょうがその企画があったからこそこうまですんなり公演を続行することができたわけで、これを先見の明というのはちょっと違うかもしれませんが、無事終わった今だからこそ言えるこの完璧なフォローを為し得たのは一重に猿之助さんの常に先のことを考える力とそして幸運によるところだよね。
それもこれも猿之助さんが千穐楽の舞台上に立つことができたから。猿之助さん自身が発する言葉を聞くことができたからそう思えるのです。
それも含め、なにもかもが奇跡のような公演だったのだと思う。
演舞場で2か月しっかり真ん中に立っていた尾上右近くん(千穐楽のカテコで猿之助さんに左手を掲げられ抱擁されたあと自らの頬に貼ってた傷跡シールを猿之助さんに貼るところに右近くんのクレバーさが見えたし、そんな右近くんだからこそ猿之助さんはルフィ役に抜擢したのだろう)、三役を務めた中村隼人くんと坂東新悟くん、そしてこの舞台の支柱で在りつづけた坂東巳之助さん(あれ?なんでわたし巳之助さんには「くん」づけできないんだろう?)。晴れ晴れしくそして誇らしげな顔で挨拶する四人の姿はわたしの宝物です。