月村 了衛『機龍警察 狼眼殺手』

これを読んでしまったらまた次作への飢餓感に耐えねばならないと購入後ひと月ほど我慢したもののこれ以上は無理!!というわけで読んでしまった・・・来年一発目にするつもりだったのに・・・・・・。欲望に負けた敗北感と罪悪感は読み始めた瞬間吹っ飛び、あとはもう一気読み。で今は読み終わってしまった喪失感と続き読みたさに襲われ辛い。由起谷が心配すぎて早く続きを読みたいけど読むのが恐いけど読みたいけど怖い・・・あーうー。
それはさておき。
私はこのシリーズを至近未来警察小説だと思って読んでいるのですが、国益を左右するどころか世界を掌握できる次世代通信システムという巨大国家プロジェクトに絡む疑獄事件と並行して起きる連続予告暗殺事件を描く今作は、これまでとは違う『至近未来』感だった。この作品の肝である「龍機兵」は出動しない。事件の中核にあるのは龍機兵のシステムなので物語の中での役割であり存在感はこれまでと同様なものの、龍機兵を使った戦いという『至近未来』感は今作には全くと言っていいほどありません。捜査二課から協力を依頼され、さらに捜査一課も加わっての共同戦線であり、加えて検察や国税との駆け引きといった頭脳戦の趣が強く、そこにはこれまでにはない現実感が充ち満ちていてこれはこれで面白くはあるものの度胆を抜かれたあの第1作「機龍警察」の世界がなにがどうなってこうなった!?としか思えないのだけど、でも紛れもなくこれもまた『至近未来』であり、そして未来へ至るまでの道は思いのほか短い。
今回一番ハッとさせられそしてゾッとしたのはこの一文

 日本人は決して越えるべきではない一線を、そうと知らずに越えてしまった。
 今回の事案は――いや、今という時代は、現代史上における極めて重大な分岐点だったのではないか。
 本当の悲劇は、ほとんどの国民がそのことに無自覚であるという事実だ。

圧倒的なまでの現実感に打ちのめされる。これは小説だけど、小説だからそれに抗おうとする人たちがいるけれど、現実はたぶんそうはいかない。


聖ヴァレンティヌスの護符を使った暗殺予告の「真の目的」にはそういうことだったのか!と興奮に震えましたが、ようやっと「沖津旬一郎」という人物について描かれたというのに全くわからないどころかますますわからなくなったことにもまた震える。