『七月大歌舞伎』@歌舞伎座

出演者変更に伴う演目変更があった影響が如実に出てるな・・・と思う瞬間が少なからずありましたが、変更されたことで坂東巳之助さんに「歌舞伎座」で「市川海老蔵と連獅子」を踊るという大役が回ってきたわけですから、それについては何も言うまい。

というわけで海老蔵さんと巳之助さんによる『連獅子』ですが、とても良かった。それが(恐らく今月の演目の中で最も短かったであろう)稽古時間に起因するものなのかそれともこの二人は“こんな感じ”なのか分かりませんが、前シテは“相棒感”が、後シテは“親子感”がなく、最初はなんていうかこう・・・・・・淡々と進む感じだったのが、じわじわと心が引っ張られるというか、情感を煽られるというか、気が付いたら謎の感動に包まれていて、これはかつてない連獅子。

それはやはり子を崖から突き落としたものの心配でたまらない親獅子の心がそのまんま今月の海老蔵さんのソレと重なるようで、水に映った親の姿を見て発奮し根性で駆けのぼろうとする仔獅子の健気さであり頑張りに今の巳之助さんの立場を重ねてしまって、それはわたしが勝手に一方的に想像し投影したものとはいえ二人の背後に物語が見えるからであろう。

それは本来の演目が持つものではないのかもしれないけれど、こういう楽しみ方が出来ることもある種特別な環境で生きる役者によって作られる歌舞伎の魅力の1つだと思う。

わたしは特に巳之助さんに対しいつもいつも何かを背負わせ勝手に心を震わせてしまうのだけれど、今回その理由がわかった気がする。
巳之助さんって、とてもエモーショナルなんですよね。巳之助さん自身がエモーショナルというわけではなくって、観客の情動に訴える演技をする人なんだとわたしは思う。

で、海老蔵さんの隣で仔獅子らしくブンブン毛を振り回す巳之助さんを見ながらこの波のようにじわじわとぐわぐわと感情を煽られる感じって誰かに対しても抱いたことがあるなぁ・・・と思ってたんだけど、ようやくわかった。高橋大輔だ。
立ってるだけでやはり華がある海老蔵さんと比べるとその瞬間は言い方悪いが見劣りするものの、みっさまが踊り始めると目が引き寄せられ離せなくなる。身体の使い方、そこから放たれる感情がわたしの中に波動のように押し寄せる。舞台の上のみっさまが纏う空気、テンポ、その存在感はリンクの上の大輔に似てるんだ。
そこに思い至ることが出来たこと。これはわたしにとってものすごく大きな収穫だわー。

『加賀鳶』のほうは巳之助さんだけ前髪アリ&白塗りの“若者”でしたが、これがまた妄想を掻き立てられる。中車さんの松蔵と海老蔵さんの梅吉の二枚頭率いる加賀鳶の中で確実に最年少なんだけど、鼻っ柱は非常に強そうなんですよね。で、これ例えて言うなら新撰組沖田総司のような存在なのではないか?とか思ってしまってもう大変。そのあとの話とか耳に入ってこなかった(暴言)(いやでもマジな話、とちり席のセンターブロックという無駄に良席で拝見しましたが海老蔵さん道玄の台詞が聞こえにくくて・・・役としての声音・口調であることは理解するし、表情や細かい仕草でもって心情やなんかは伝わってくるんで「わかる」ことはわかるんだけど、それでもちょっとこれはどうなんだろうなぁ・・・と思わずにはいられないボソボソっぷりだった)。


いろいろあって独特な雰囲気の今月ですが、どうかどうか何事もなく無事に千穐楽の幕が下りますように。