久坂部 羊『テロリストの処方』

テロリストの処方

テロリストの処方

医療格差が広がる中、富裕層を相手にする“勝ち組医師”を狙った連続テロが発生。現場に残されるのは『豚ニ死ヲ』という言葉。
目的は明らかなのでミステリー要素としては“テロの首謀者は誰か”ということになるわけですが、それについては予想がついてしまうので(実際その通りであった)そっち方面の愉しみというのはさほどありませんが、医療方面はさすがのリアリティ。つい先日iPS細胞を使った治療の費用が1人当たり1億円というニュースを見たこともあって(ニュースの主題は実施された他家移植と呼ばれる手術が成功すればそのコストが10分の1程度にできるというものでした)、裕福な人間の平均寿命とそうでない人間の平均寿命の差が16年だったかな?それぐらいあるという作中の記述(そういうディテール)も作り事感なく受け止められてしまった。
そしてこれが一番怖かったんだけど、医療という生命に直結するシステムについて、同じ大学出身者の集まりで決められてしまう(その集まりが中心となって改革が進んでしまう)ということ。この物語が主に大学の同級生たちの間、つまり内輪の話として展開することが恐ろしい。