長岡 弘樹『白衣の嘘』

白衣の嘘

白衣の嘘

職業や舞台、テーマに関わらず、長岡さんの描く物語はいい意味で変わらないなぁ。キレと人情を一つの物語の中でこうまで上手く、絶妙なバランスで共存させる人を私は他に知りません。
描かれているのは「人間の情」なんだけど、そこに湿っぽいところは一切ない。余計なものをとことんまで削ぎ落とし、「情」を描く。その上で含みというか余韻というか、心に引っ掛かる「何か」を残すんですよね。そこから何を感じ何を得るのかは読者の自由。
そこに感じる潔さ。私はそれがとても好きです。
今回一番面白いと思ったのは「涙の成分比」かな。理由はなんであれ許されない罪を犯す(犯した)人間の物語が多い中でこれだけはそういう人間が出てこないんだけど、姉妹の間にある愛と妬み、そういうぐちゃぐちゃっとした感情を描いた先に起こる出来事、そしてさらにその先にある未来・・・と、長岡さんの作品の中ではちょっと毛色の違う(ように感じた)作品で、こういうものも書けるのかーと思いつつ、この1編が1冊の中で浮かないところに長岡さんの巧さを改めて思い知らされました。