柚月 裕子『あしたの君へ』

あしたの君へ

あしたの君へ

孤狼の血」という作品がとても面白かったのでお名前を記憶した作家さんですが、続いて読んだ「臨床真理」と合わせて女性作家にしてはかなりハードな作品を書かれる方という印象を抱いてました。で、家裁調査官になるべく研修期間中の家裁調査官補(通称カンポちゃん)を主役とするこの作品は、これまでとは真逆と言ってもいいであろうタッチで描かれてまして、1.2篇目までは同姓同名の別人か!?と思ってしまったほど。
でも最初は少年審判を担当し、続いて家事審判を担当するにつれ、だんだんと「ああ、エグイなー」と思う描写がふえていき、読み終わる頃には柚月さんに対する私の印象は補強されてた。
悩みもがきながらも足を使って丁寧に誠実に調査を重ね、そして自分なりの「結論」を見つけるという主人公なので描写的にはこれまでのように激しいものではないけど、淡々と紡がれる物語のそこここにやっぱり心が痛くなる要素があるんですよね。それに気づいてしまうと逆にその淡々とした文体自体が怖くなる。
タイトルから受ける印象通り、全体を通して前向きな話ではあります。でも読み方によってはサラッと読めてしまう物語が実は毒まみれなわけで、私はそこに柚月さんらしさを感じる。