横関 大『マシュマロ・ナイン』

マシュマロ・ナイン

マシュマロ・ナイン

入学希望者増を目論み学校主導で野球部を作り甲子園を目指す。これはわかる。
そのために部員が暴力沙汰を起こしたことで無期限の活動停止状態にある相撲部員たちを野球部員たちにする。これがわからん。
相撲部員だろうが野球部員だろうが生徒が暴力沙汰を起こしたことに変わりはないだろうに、ていうか相撲より野球のほうがそこいらへん厳しそうだけど相撲部から野球部にジョブチェンジすれば大丈夫なんだ?。
と思いながら読み始めましたが、そんなことは早々にどうでもよくなりました。
部員数9人、つまり野球をやるギリギリの人数しかいない(控えがいない)素人揃いの新設野球部が甲子園を目指すってな話は(目指すものに関わらず)そんなに珍しくないと思うんだけど、この作品の特徴は部員全員が「元相撲部員」ってところにあります。部員の総体重1トン超え。部員の50m走の平均タイムは18秒台(そのうち二人は走りきれず)。そんなやつらが野球なんて出来るわけがない・・・・・・と思いきや、元々はそれぞれ相撲をやっていたわけで、“走れないデブ”かもしれないけど“動けないデブ”ではないんですよね。そして勝利をめざし身体を動かし技術を会得する気持ちよさを知ってるやつらなんです。運動のあとのご飯が最高に美味いことを知ってる。なかにはプロ、幕内力士になれるであろう素質の持ち主もいたりするので運動能力という点に於いてはむしろ悪くないし、なにより「食べるため」ってのが身体を動かすモチベーションになるんですよ。餌で釣れば動く(笑)。ここが最大のポイントで、元相撲部員たちが野球部員になり野球の練習をする過程がごく自然に感じられるのです。かなりおかしな状況なのに(笑)。
そしてそんな彼らが「勝つ」ために選んだ戦術。圧倒的なパワーでもって点を取りまくる。10点取られたら15点取ればいい。それが可能なのが「元相撲部員」たちの肉体であり、そんな子たちが一生懸命真面目に練習してればそりゃそれなりのところまではいけるかもな、と思わせる妙な説得力があるんです。
デブたちを率いる野球部の監督は、かつてドーピング検査に引っ掛かり球団を解雇されたと過去を持つ元プロ野球選手。でもそれは冤罪で、その真相解明がもう一つの柱になるのですが、正直こっちは面白くなかった・・・かなぁ。面白くないというか、どうでもよかった。
リアルであればドーピングで球界を追われた人物が監督として率いる設部1年足らずの野球部(部員は全員元相撲部)が東京の地区大会で快進撃してるとなればあんまりいい印象を持たれないと思うんですよね。なんかやってんじゃないかと、そう思う人がいてもおかしくないと思う。そういう余計ななものを取っ払うために、部員たちのためにドーピング疑惑を何がなんでも払拭してみせるってなことならいいんだけど、これそういうんじゃないですから。生徒たち監督がドーピングやってようがやってなかろうがどうだっていいですからね(笑)。
だからこっちの軸は冤罪によって人生を変えられてしまった元プロ野球選手が立ち直る話、ということになるわけですが、そっちはそっちで別の話として読みたかったかなー。
私がこの作品で一番燃えたのって、エースのピンチを仲間が「四股」を踏んで救うってな場面だったんですが(この作品の実写化は求めませんが(笑)、万が一実写化された時はこの場面で泣くと思う(笑))、これを監督が見てないってのが野球部の話と監督の話がかみ合ってない証しじゃないかな。
それでも面白かったのは、それだけマシュマロ・ナインの魅力・・・・・・というか破壊力?があったからだと思う。動けるデブ愛おしい(笑)。