『重版出来!』第6話

かつては熱血編集者だったが担当してた雑誌が廃刊となり、担当作家から見放された過去を持つからといって、安井のやり方は認められないと思う。
「やり方を変えただけ」の意味はわかった。俺達の『家』を守るために、今度は絶対に潰させないために、手っ取り早く利益を出すため夢だの理想だのを捨て“売れる作品”を作ることが安井なりの今の『やり方』だというのなら、それは理解します。でも理解できるのはここまで。
売れそうな原作持ってきてそれに見合う絵を描ける人材をネットで拾って描かせるという手段がいいか悪いかの判断はわたしには出来ないんだけど(「絵」は上手いけど話づくりは下手もしくは出来ないという人にとって、この道は決して悪いものだとは言えないと思うし)、声をかけた人材に対するサポートはちゃんとしろよと。9時〜18時だっけ?その勤務時間外は電話もメールも受けませんと最初からキッチリ断ってるから休暇中は電話に出ないってのはまぁいいとしても、打ち合わせが5分で終わるとか、髪型変更を一方的に電話で通告するとか、それは編集者として仕事をしてるとは言えないと思うの。打ち合わせって一方から言う事だけ言って終わりにしていいことじゃないじゃん?それは単なる連絡事項の伝達であって打ち合わせではないじゃん?。
過去にどんなことがあったにせよ、どんな想いがあるにせよ、それは安井の気持ち、安井の言い分でしかないわけで、新人漫画家にしてみりゃそんなことは知らねーよってな話なわけでさ、利益という結果は出してるんだろうから会社としては、もっといえばバイブスという雑誌(編集部)としては安井のやり方を否定はできないとしても、やり方の中身はもうちょいやりようあるだろうと思っちゃう。今はこのやりかたで目先の利益を上げられたとしても、いずれ人気漫画家になった者たちは安井のところ=バイブスでは描きたくないと思うんじゃないかと思うわけで、将来的な利益を失う可能性だってあるわけだし。
でも、漫画家がどんな編集者につくかというのは『運』なんだよね。それはこれまでの話でキッチリ描かれていた。
そして心ではなく安井を“選んだ”のは東江さん自身。
そこで潰れてしまう新人もおそらくこれまで少なからずいたのでしょうが、東江さんは自分の選択が間違っていたと気付き、認め、やり直す道を選び、安井にそう告げた。
このバランスだよなー。
他社の編集者や書店員から潰しの安井と呼ばれ、主人公の云わば“敵”として存在する男を描くにあたり、これこれこういう過去があって、これこれこういう想いがあって、だから今現在こういう人間なんですよってな話だったと書くとほんとありがちな展開だし、実際ありがちな展開ではあったんだけど、安井だけの話で終わらない、単なるいい話として終わらせてないところがこのドラマのいいところだと思う。
心を「女神」と言う中田くんの漫画を掲載できたのは安井が稼いでくれてるからで、でもその稼ぎの背景には潰された新人漫画家の屍があるわけで、編集長はもちろん五百旗頭さんも、それから安井と同じく廃刊を経験しながらも全く別の方法でもって仕事をしてる菊地さんも(好き勝手なこと言ってるお偉いさんに殴りかかろうとした安井を必死で止める菊地さんにときめいたー!)、そのことをちゃんとわかってるんじゃないかな。安井のやり方を認めてるわけではないかもだし、安井の真意までは理解してないかもだけど(それをわかってんのは編集長だけかなー)、なんとなくでもわかってはいると思う。わかってくれてると思いたい。でもそれを心や中田くんに言うことはしない。劇中でそれを気づかせるようなことはしない。でも馴染みの書店員に教えてもらった安井のツイッターからそうとは知らず「漫画への愛情」をしっかり感じ取ってる。このバランスがとても好き。
東江さんに自分の漫画を描きたい、描く!と宣言されるも最後まで潰しの安井の顔のままで「おつかれさまでしたー」と平静を装いつつ、でも目には涙が浮かんじゃってるヤスケン超よかったわー。この場面と心と東江さんが話ししてるのを見て浮かべた笑みのカットだけで、編集長の労い台詞がなくとも安井の中で今も漫画への愛情はなにひとつ変わってない、潰しの安井と呼ばれても安井なりのやり方でバイブスを守り支えているんだとわかるもん。
それでいいのか?こんな仕事のやり方してて辛くないのか?と思うけど、家庭を守ることも含めてこれが安井の「やり方」なんだろうし、本心はどうあれこういうやり方、こういう立ち位置を選んだのは安井自身だし、かつて安井が担当してた漫画家に言われたように“会社から守られてる”立場を捨ててフリーになった菊地さんもそうだし、人それぞれなんだよね。
酷な言い方だけど、安井に担当された新人たちもそう。潰された人も多いんだろうけど、東江さんはまだどうなるかわかんないけど潰されなかったひともいるんじゃないかと思うんだ。中田くんと違い安井に声をかけられた人たちは画だけみれば即戦力になれるだけの技術があるってことだと思うのね。そこで安井の無茶な注文にも応えることができたら、それは確かな経験になるだろうし、即戦力としての“実績”になるんじゃないかな。だから東江さんにもすぐ次の仕事を回そうとしたんだろうし。安井の元で何作か堪え、東江さんのように安井から離れた人がいるとして、他社に売り込みに行くときにコミカライズだろうがなんだろうが大手出版社から本を出したという実績があれば数多いる“漫画家になりたい素人”とは確実に扱いが違うはず。生活環境や性格含めひとによって状況も条件も違うだろうからひとくくりにはできないだろうけど、安井のやり方に疑問と不満はあるにせよ、それでも最終的にはやっぱりその人次第ってことなんじゃないかな。
っていま感想書いててふと思ったんだけど、安井が新人漫画家に対し過剰ともいえるほどの冷淡さ非道さで接してるのって、もしかしてちょっとでも親身になるというか、熱を入れて接してしまったらすぐかつての自分に戻ってしまうから・・・なんてことだったりする?。もしくは、あれだけ時間をかけて口説き落とした先生にもう君のことが信用できないと、君とはもう仕事をしたくないと、そう言われてしまったことで、漫画家と親密な関係になることが怖くなってしまったからとか。信頼関係を築けたと思った相手に拒絶されるぐらいなら、最初から信頼関係なんてないほうがマシだと思ってるとか。
他の編集者たちが作家と共に夢や理想を掲げて作品作りしたり、中田くんの作品を掲載するような冒険が出来る雑誌作りのために、夢も理想も捨ててコンスタントにヒット作を出し続けることが自分の役目だと割り切ってるのは確かだと思うんだけど、最初に書いたようにそれだけが理由だとしたら今の安井の仕事の仕方、新人への対応・態度は納得いかないわけで、そこに“以前の自分に戻ってしまわないために”という戒めがあるのだとしたら、もう“お前なんて嫌いだ”と言われたくないからだとしたら、(だからって酷い扱いされる新人の気持ちはまた別の話として)納得できる気がするとともに安井を見る目が俄然変わるんですけど!。