天童 荒太『ムーンナイト・ダイバー』

ムーンナイト・ダイバー

ムーンナイト・ダイバー

震災の影響で立ち入り制限されている区域に住んでいた住民たちと契約し、海の底に沈む津波によって流された物品を引き上げる非合法のダイバーが主人公です。真っ向から震災を、震災そのものというよりも“遺された物”を求める“残された者”の想いを描いた作品で、しかもそれを描くのは天童荒太ときたらもう・・・激重な作品であろうとかなりの覚悟をしてから読み始めましたが、意外や意外、これまでの天童作品のなかで最も読みやすかった。
これまでは個々人を描いていたのに対し、この作品は個人を描きながらもその向こうにそれぞれいろんな想いを抱える大勢のひとがいることが分かるわけで、そしてそれは描き切れないことであろうわけで、どれほどのひとがどれだけのものを抱えているのか、ひとの数だけ物語があろうわけで、これはその一つ、ということなのかなーと。それが読みやすさという印象に繋がったのかなと思う。