『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』第7話

それまで音に対し頑なな態度を貫いていた練なのに、ボルトに走りを教えたのって佐引さんなんですってね、という音の言葉には「それ嘘ですよ」「あのひと虚言癖あるんで」と答えた。嘘だと知って「チッ」と悔しそうにする音を見て、練が必死で張っていた結界みたいなものにヒビが入ったように見えたんだけど、だとしたら佐引さんの『虚言癖』にも意味があった、ということだよね。
ていうか音が練と再会できたのは佐引さんが練の居場所を知ってた(名刺を渡してくれた)からだし、佐引さんが会津に戻った練の顔を見に行ったから、練が当時どんな状況であったかを音は知ることができたわけで、なんだよぜんぶ佐引さんのおかげじゃん。
虚言癖の持ち主である佐引さんなので、佐引さんが語って聞かせた「大好きな爺ちゃんから酷い言葉を投げつけられ、それを全部受け止めてしまう練」ってのは多少の脚色、いまふうに言うと“盛ってる”のかもしれませんが、自分の両頬に手をあて沈痛な面持ちの佐引さんはいいひとっぽかった。当時の練を思い出して心から同情してるっぽかった。
練の爺ちゃんちと佐引さんの実家がどれほどの距離なのかわからないけど、偶然会ったとかならともかくそうでないのならばわざわざ元同僚の顔を見になんていかないと思うのよ。普通は。でも佐引さんは行ったわけじゃん?。田舎に帰りたいから一日だけ休みをくれと土下座した練との地元あるある話でおおまかな場所はあたりつけてたんだとしても具体的な住所まで控えてたとは思えないから、電話して住所聞いて出向いたんだろうなと想像するよね。なぜそこまでしたか?といえば、それは恐らく震災があったから・・・なのではないかと想像するけど、でも会津のあたりはそんなに被害はなかったというし、練の爺ちゃんの死因も震災とは直接の関係はないわけで、だからまぁ練を心配してってな気持ちも多少はあっただろうけど、それよりも「俺も田舎に戻ったんだぜ」と、俺だって田舎に戻れたんだぜと、それ自慢するつもりで練のところに行ったら思いのほかハードな状況を目の当たりにして佐引さんショック・・・浮かれ気分だった俺のバカバカ的な感じだったのではなかろうか。練のことを全部受け止めちゃうって言ったけど、両頬に手をあてながら当時の練を語る佐引さんをみるに、佐引さんも結構受け止めちゃうひとなのではないかなーと思った。あと佐引さんが飲んでるコーヒーカップになりたいなーとも思った。ほんとうは佐引さんがいつも着てる柿谷運送のブルゾンがいいけどそれは欲張りすぎるので佐引さんの座った椅子でもいいです。