『同じ夢』@シアタートラム

光石さん演じる精肉店を営む「松田昭雄」の自宅での一日を描いた舞台なのですが、なんだか映画を見ているようでした。
映画やドラマを観ていて舞台のようだと感じることはあれど、舞台を観ていて映画のようだと感じたことは多分一度もないので、なんだか不思議な感覚でした。

光石さんの存在が大きかったのかなぁ?。麻生さんも。
わたしにとって田中哲司さんや大森南朋さんは映像の人ではないんだけど、光石さんと麻生さんは完全に映像の人なのでそんなふうに感じたのかもしれません。

薄暗い部屋に無表情で掃除機をかけるパジャマ姿の昭雄のシーンから舞台は始まります。
そして暗転の後、粗末なダイニングには田中哲司、居間のソファには大森南朋が座ってる。
哲司の髪がちょっと伸びている!!!!!!!!!!(歓喜)。
わたしの第一印象はソレでした。すいませんこんな女で。
哲司は光石さんの友人で文房具屋を営んでる「佐野秀樹」
南朋さんは10年前に松田の妻を轢いてしまった加害者「田所」
麻生さんは松田の父親の介護に来ている派遣ヘルパーの「高橋さん」
木下さんは松田の娘であり田所に恋心を抱く「靖子」
そして脚本・演出の赤堀さんが父親の代から松田の店で働いている・・・・・・・あれ?赤堀さんの役名なんだっけ?三度観たのに全然思い出せない・・・
妻の命日にこの6人が上辺はにこやかなものの心無い会話を交わしているうちに、それぞれの抱える事情、それぞれの感情がじわじわと明らかになっていく。
それは暴力であり、殺意。
加害者と被害者遺族、店主と従業員、ヘルパーと要介護者、父と娘、そして友人同士の会話の中でそれは時折顔を出す。
でもそれが爆発することはない。今のところ彼らは換気扇の下で吸うたばこの煙とともにそれをちょっと吐きだすことで、日々を過ごすことが出来ている。
彼らの暴力であり殺意はたばこの煙となって換気扇から流れ出ていく。
この日は妻の命日という「特別な日」ではあるけれど、今日も明日も明後日も、彼らの日常はこうやって続いていくのだろう。

・・・と、感想を書くべく思い出してるんだけど、結局何を描いているのか、何が言いたいのか、よくわからなかったというのが正直な気持ちです。

赤堀さんの作品は劇団外のものを何作か拝見してるんですが、いつも「何を言ってるのかわかるようでわからない」という感想になってしまって、今回もやっぱりそうだった。

面白くないわけじゃないんだけどわからない。表情や動き、役者たちの口から出るしょーもない発言や会話に笑わせられたりキュっとさせられたりはするんだけど、観終って残るものはモヤっとした捕えどころのない感覚なんですよね。
この舞台のタイトルがなぜ『同じ夢』なのか、わたしにはそれすらわかりません。

劇中で佐野が突然「いつでも夢を」を歌いだすんですよね。そういう年代でもないのに酔うとなぜかこの歌を歌いたくなると言うのでそこに意味を見出そうとするのは無駄だと、無意味だと、そういうことなのかもしれませんが、一度目は唐突以外のナニモノでもないタイミングで歌うんだけど、二度目はトイレから聞こえる靖子の泣き声を消すようにして歌うんですよ。最初は佐野が、続いて赤堀さんが、田所がそれに続き、「なんで?なんでみんなで歌ってんの!?」と戸惑っていた松田も最終的には歌いだす。
台所で大人の男が四人揃って「いつでも夢を」を合唱する。
母親の死の原因である男に対し一方的な恋心を抱き、それを父親に告げたいという“暴力”のはけ口を求めてトイレで泣く娘のために・・・なのかなぁ?
『言っているいる お持ちなさいな
いつでも夢を いつでも夢を
はかない涙を うれしい涙に
あの娘はかえる 歌声で』
そう考えるとこの歌詞はぴったりではあるんだけど。
確実なのはその姿はとても滑稽で、滑稽だけどなんか可愛いということ。なんか楽しそうだということ。
それがタイトルに繋がるのかなーと考えてはみたものの、やっぱりわたしにはわかりません。


とまぁこんな感じのぼんやりとした感想ではありますが、キャストはよかったー!。
ていうかやっぱこれだけのキャストを300弱の客席しかないスペースで拝めるって、お得感パねえ。
(舞台中、近くに自衛隊があるからということで何度も通り過ぎるヘリの音が聞こえるんだけど、ちょうど去年の同じ時期にこの会場でヘリの音が鍵となる凄まじい舞台を観たもんで、観劇中ちょっとしたトラウマ気分を味わいましたが・・・)

哲司も南朋さんも光石さんも(あとまぁ赤堀さんも)、なんかだらしないんですよね。全体的にだらしないオッサンたちなんですよ。それがやけに可愛い。
そんなオッサンたちがちゃちい換気扇の下で固まって煙草吸う姿は情けない気すらするんだけど、そんな姿がとにかく可愛いんですよ。

中でも田中哲司の存在感が光ってた。
哲司は言ってしまえば部外者なんですよね。光石さんを中心とするならば、木下さんは娘だし、赤堀さんは父親の代からずっと働いてる従業員だし、麻生さんは父親の世話をしてるヘルパーで、“松田家”に居る理由がある。そして加害者である南朋さんは“この日”松田家に居る理由がある。でも哲司だけはそれがない。立て替えた呑み代の5千円を貰いにきたという理由はあるけど、それがこの日である必要はないし、家まで取りにくる必要だってない。

松田は高橋さんのことが好きで多分付き合いたいと思ってて、高橋さんは介護対象の松田父からセクハラを受けていて、靖子は母親をひき殺した田所を好きだということを父親に言いたいと思ってて、松田の妻をひき殺した田所はまたトラックの運転手になろうかと思ってて、赤堀さんはもう六回も店のレジから金を盗みそれを松田に責められている。松田家に居る理由がある5人の間ではそれぞれいろんな関係性があって、問題があって、事情があって、感情があって、だけと哲司演じる佐野にはそれがない。

だけど哲司こそが6人の中心にいるんです。そこに哲司がいることで、それぞれの感情がなんとなく静まるんです。消えはしないけど、なんとなくその場が収まるの。
でも哲司には哲司なりの理由があるんですよね。松田家に居る理由ではなく、居たい理由がある。
正確に言えば自宅に居たくない理由があるんです。
哲司は母親と2人暮らしなんだけど、ボケてしまった母親と一緒にいると殺してしまいそうになるのだと。だからなるべく家に居ないようにしているのだと。
そんなことを老人介護を仕事としてる麻生さんにサラっと話す哲司は、麻生さんに「昭雄のケーキ」を執拗に勧めるんだよね。

その直前、麻生さんは光石さんの財布から紙幣を盗むんだけど、それを哲司は目撃していて、麻生さんも見られたのではないか?と思っていて、でも哲司は見たとも見ていないとも云わず曖昧にしたままで、麻生さんに「昭雄の気持ちに気づいているのだろう?」と問い、そして「あんたのために用意した昭雄のケーキを食べてよ」と強要するんです。
ここ、なんだかすごく不気味で、佐野秀樹という男が抱える・・・・・・ありがちな言葉を使うならば「闇」を感じさせられたんだけど、そういうものを内包していることを描きつつ、それ以上のことは描かずに、佐野がいることでなんとなく暴発することなく時間が過ぎるのです。
この独特な立ち位置を田中哲司は飄々と軽薄に演じてた。ていうか可愛かった(笑)。

もうお一方。わたしのお目当て大森南朋さんは、途中まではなんかよくわからない人物だなーと思ってたんですよね。10年前に松田の妻が死んだ事故の加害者であることは早々に明かされ(あらすじにも書かれてるし)、毎年この日に松田家を訪れ線香を手向けていることはわかるんです。それだけ聞くとまぁまっとうな「加害者」ですよね。自分のしたことを悔いていて、謝罪するために10年間欠かさず命日に松田家を訪ねているのだろうと。実際最初のうちは神妙な態度に見えたし。

でも主に靖子との何気ない会話、「最近どう?」的な世間話の中でだんだんと現状が見えてきて、鬱憤が見えてきて、別の話をしてる松田から「ね?田所くんもそう思うよね?」と同意を求められると身体ごと反応したりして、まぁ・・・あんまり頭よくないんだろうなーとw、そんな印象として固まりつつあったところで問題の場面になるのです。

佐野に誘われちょっと呑むために仕事後改めて松田家を訪ねた高橋さんと2人っきりになってしまう瞬間があるんだけど、そこで田所は「ニックネーム」の話をするのです。唐突に。
初対面の相手との話のネタとしてはまぁそんなにおかしいことではないんだけど、田所は自分は高校のときに「オオサンショウウオ」というあだ名だったと言うんですよね。そして「なんでだと思います?」と前のめりで聞くんです。そりゃ高橋さんは「ちょっとわかんないです」と苦笑いで返すしかないですよねw。すると田所は待ってましたとばかりに「チンコですよチンコ!」と嬉しそうに言うんです。ハァ???ですよねw。高1の林間学校でみんなで一緒に風呂に入った時に田所のチンコがすごいと大騒ぎになり先生まで驚き、誰かが「オオサンショウウオ」みたいだと言ったことであだ名が「オオサンショウウオ」になったと、親しい友人は「オーサン」とか呼んだりしてと、そんなことを嬉々として話すんですよ。初対面の女性に。

・・・・・・・こいつ馬鹿だ(笑)。

この瞬間わたしの中で南朋さん演じる田所は完全に「馬鹿」になりました(笑)。
でもこの男、事故とはいえ人の命を奪ってるんですよねぇ・・・。
高橋さんは被害者遺族の家でたまたま会った(事故に関しては)無関係の人間ではあるけどさ、被害者宅で命日にする話じゃねーよな。
それを言うならまたトラックに乗ろうと思ってると、トラックに乗ることは『自分に向いてる』と思うしと、そんなことを言うとか超無神経だし、前から言おうと思ってたんだけど「もう、こういうの(命日にわざわざ訪ねてくるの)はいいんじゃないかな。今日で終わりにしよう」と自分が殺してしまった人の夫(家族)に言われてヘラヘラ笑いながら「僕もそう思ってました」とか言っちゃうとかこの人ちょっとおかしくないか?という気はしなくもないんだけど、まぁ・・・・・・馬鹿なんだろうってことでいいや(笑)。

あ!馬鹿で思い出したけど、この男はこの日歯医者の予約を入れてんですよ。夜おそくまでやってる歯医者だというから日中松田家を訪ねてお線香上げさせてもらって、適当な時間でお暇して夜は歯医者に行こうってのはまぁいいんだけどさ、なんだかんだでずるずると松田家に留まってたからもう絶対間に合わないって時間に「歯医者の予約入れてたんだ!」と思いだすわけですよ。で、前回も二日酔いでドタキャンしたからまたキャンセルの連絡するの気まずいなーとか言いつつ電話しようとするんですよね。そしたらそれを聞いてた哲司が「今から嘘つくんだ?」ってニヤニヤしながら言うわけですよ。
この時南朋さんは居間のソファに座って電話しようとしてるんだけど、ソファーの肘掛けに座って背もたれに手を伸ばし座ってる南朋さんの背後から「今から嘘つくんだ?」と囁く哲司なのね。
心のシャッター千回押した。全力で押しまくりました。