有栖川 有栖『鍵の掛かった男』

鍵の掛かった男

鍵の掛かった男

火村シリーズ13年ぶりの描き下ろしということで、それはもうすっごくすっごくすっごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーく楽しみにしていたわけですが、半分ぐらいまで火村ほとんどでねえええええええええええええ!!!。アリスが東京在住の大御所女性作家に大阪のホテルで自殺した(と思われている)男について死の真相と、それからその男自身についての調査を依頼されるという始まりなんですが、女性作家は「火村とアリスに」捜査を依頼するのね。でも時期が悪くて火村は大学入試対応のため自由な時間がないと。だから前半はアリスが単独で捜査する、という流れでして、まぁそれはいい。いいとは思うんだけど、でもやっぱり・・・言っちゃなんだけど・・・・・・退屈なんですよ。アリスの調査によって徐々に明らかになる男の人生はそれなりに興味深くはあるけど、読み物としては正直面白くないんです。読んでも読んでも残りページが減らなくて(いや減ってはいるんだけど減っている気がしない)、これどうしたもんかなぁ・・・と思ったところで、満を持して、『本隊』である火村が捜査に乗り出すわけです。
そして火村は言うのです。ダークスーツの上に黒いトレンチコート、赤いストライプ柄のネクタイを相変わらずルーズに締めた火村が、ようやっと顔を見合わせて話を出来る環境で、二人っきりになったところで、
『刑事ごっこどころか、お前は本当によくがんばったよ』
と。
キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!(ガッツポーズ)
この瞬間のためにつまらない前半を耐えてきたんだなと、「お前は本当によくがんばった」ってのは私に対しての言葉なのだと、思わず震えました。
火村本格参戦以降は関係者間の関係性がどんどんと明らかになり、でも事件の真相はなかなか見えず、そこへ現れた男が書いた「手紙」によってついに鍵が開かれ、あとはもう火村の推理を聞くだけといういい意味で「いつもの」火村シリーズで、あれもこれも伏線だったのか!と思うとともに(推理のための伏線も結構あったけど・・・)、そこにある友人への複雑な感情には頷けるところもあったりして、さらに火村もまた「鍵の掛かった男」であるというまさに火村シリーズならではの締めで満足。終わってみれば前半の焦らしプレイがあったからこそのこの充実感なのだなと。