五十嵐 貴久『贖い』

贖い

贖い

東京と埼玉と愛知で起きた児童殺害事件。一見なんの繋がりもなさそうな三つの事件が刑事たちの努力によってやがてひとつとなる。その中心にいるのは大手商社に勤める定年を目前にした一人の男であった。
という物語で、現在の事件の背景には過去の出来事があって、動機は復讐で・・・とまぁ書き尽くされた題材であり構図ではありますが、面白かった。内容的には面白いと表現すべきものではありませんが、それぞれの事件を追う刑事を中心に「人間」の描写が丁寧で、それにより事件の鍵を握る男がじわじわと形作られていく様がとても読み応えがありました。かなりの人数が登場するのに、一人一人の人生が大なり小なり「見える」んですよ。刑事たちはもちろんのこと、男の同僚や行きつけの店の店員まで直接描写はされてなくともその人が男に対しどう接していたのか、どんな感情を抱いていたのか、それだけでその人間が物語のなかにちゃんと存在してるの。だからこの結末が成立するし、この読後感が生まれるのだと思う。
これは確実に映像化されると思うのだけど、その際は人物を端折らずに描いて欲しい。