木下 昌輝『人魚ノ肉』

人魚ノ肉

人魚ノ肉

帯に「人魚の肉を食めば、妖に憑かれる」とありまして、その「人魚の肉」とやらを食べた岡田以蔵坂本龍馬から始まり、新撰組隊士、さらには近藤勇沖田総司斎藤一と幕末の志士たちが次々と「妖」になっていく物語です。
どれも二次元・三次元問わず妄想力を掻き立てられるのですが、やはり沖田総司が主役の『肉ノ人』が抜群に読み応えあり。
隊士から勧められて人魚の肉と言われる珍味を口にした総司が血肉を欲するようになってしまうという物語なのですが、山南さんの愛に泣かされまくり。池田屋での喀血や山南さんの体調、長倉と原田の離脱といった史実とされている事象を「総司の妖化」というトンデモ設定へ絡める様も見事だし(これは全ての作品がそうで、だから歴史小説の枠からはみ出さず“そういう(それらしき)こともあったかもしれないなーという目線で読めます)、ていうか新撰組+吸血ときたらその種の人は即思い浮かぶ作品がありまして、もれなくわたしもそれを想起しながら読んだわけですが、女が介入しない分こっちのほうがはるかにピュアで、山南さん(と、そんな山南さんの意志であり遺志を受け止める近藤さんと土方さん)素敵すぎて泣けちゃう。哀しくも優しいラストカットに泣いちゃう。