松竹創業120周年『八月納涼歌舞伎』第一部@歌舞伎座

とにもかくにも勘九郎さんと巳之助さんの棒しばりを観なくては!!!という一心でまずは一部を拝見いたしました。

泣いちゃうかもなーって冗談半分で言ってたんだけど、わたし・・・・・・・ガチ泣きでしたわ。

まずね、みっくんが先に一人で踊るんだけど、それを背後で見ている勘九郎さんがものすっっっっっっっっっっっっっっっっっっごく優しい顔してるのね。お酒呑んでゴキゲンってな場面なんで勿論演技としての表情でもあるのでしょうが、それだけじゃない、包み込んでくれるかのごとき表情で小さく頷きながらみっくんの踊りを見守ってくれてるの。それで泣いた。
そして踊り終えたみっくんは続く勘九郎さんの踊りを見るんだけどさ、酔って踊ってるという態なので演技としてウプ顔を作ったりしてるんだけど、もう肩がぜいぜいしちゃってるのね。必死で息を整えてるんですよ。

かつて同じ納涼歌舞伎で二人の父親による棒しばりを観たことがありますが、そのときは踊ってる人を見てたんだろうな。背後に控えてる勘三郎さんであり三津五郎さんがどんな様子だったのか、どんな顔をしていたのか、たぶんわたしは見ていなかった。
だからここでみっくんがゼーハーしてるのはもしかしたらダメなのかもしれません。まだまだ力不足ということなのかもしれません。

ていうか比べるまでもなく勘九郎さんとの力量差体力差は明らかだしね。踊りのことなんてなにひとつわからないド素人のわたしの眼にもなにもかもが違うのは明らかなんです。
年齢差経験差だけじゃない、自ら招いた空白の時間がその理由のひとつであることも、たぶん明らか。
それを誰よりもみっくん自身が分かってるんだと思う。

どれだけ頑張ればそれを取り返せるのだろうか、どれだけ精進すれば勘九郎さんの、そして家元の背中が見えてくるのだろうか。
もしかしたらずっと無理なのかもしれない。ずっと見えないのかもしれない。
それでも、だからこそ、巳之助さんは全力を出さなきゃならない。その想いが激しい息遣いに現れてた、とわたしは思いました。

そんなわけでボロ泣き。恥ずかしながらクッソ泣いたわ。
泣きながら巳之助さんのことをずっとずっと応援しようと誓いました。

みっくんって声はとてもいいんだよね。台詞を聞きやすいクリアな声でありながらまろやかさのある素敵な声なの。
加えて立ち姿はスラっとしているのに愛嬌のある顔だち(ものは言いようですw)で、勘九郎さんや七之助さんとはまた違う華がある。

おちくぼ物語では七之助さんの姫と隼人の王子様をくっつけるキューピット役を新悟くんとともに夫婦として演じるんだけど、役が合っていることもあってみっくんらしさが感じられるとてもいい演技だったのね。
きっとこの先いろいろと大変だと思うんだ。父親がある程度の道をつけてくれていてしっかり客がついてる中村屋兄弟と比べて、みっくんのこれからはほんとうに大変だと思う。
でもみっくんには個性がある。これからの歌舞伎を担っていくであろう若手の中でみっくんの個性は貴重だよ。三津五郎さんとはちょっと違うその個性をどうか失わないでほしい。
回り道しちゃったこともきっと無駄じゃない。それはこの先きっときっと坂東巳之助という役者の糧になる。みっくんならできるはず。
そんな巳之助さんの成長をずっとずっとずーーーーーーっと見守っていきたい。

そんなことを強く思った一部でありました。


もうひとりのお目当てである隼人は開幕後の結構なぶっ叩かれっぷりを目にしていたのでその心積もりだけはしっかりしていきましたが、え?これ悪くなくない???。
歌舞伎版シンデレラと言うぐらいですから、隼人の左近少将はまさしく「王子様」なんだけど、なんかもう・・・とにかく・・・・・・キモいのね(笑)。みっくんに七之助さん演じるおちくぼ姫の話を聞かされ続けた隼人は七之助姫に恋をするんだけど(ってことはつまり“みっくんが話す”七之助姫に惚れたということなわけで、みっくんはてっきり七之助姫に恋心を抱いてて(身分が違うからその自覚はない)、ゆえに隼人はみっくんが語る七之助姫に恋をしたってなことだと思ってて、だからこれまたてっきり幼馴染のような存在だと思ってた新悟くん(七之助姫のお世話役)と夫婦だってんで驚いてしまった)(でもこの二人の“夫婦喧嘩”は可愛いw)、顔も知らない姫の自宅を“家人の留守を狙って”訪ねるのね。しかも暫くの間家の側の茂みに隠れてタイミング見計らってたとか言うわけですよ。とんだストーカー気質じゃないですか!w。そんで断りもなくずかずか上がりこみ姫の頬を刺す蚊を捕まえて「・・・憎い奴。姫の血を吸うとは」とか言っちゃうわけですよ。超キンモー!!でしょ?w。
でもなんか素敵なのw。フワッフワしてるんだけど(歌舞伎風に言うならば「浮世離れ」ということなのでしょうが、フワッフワという表現のほうが絶対合ってるw)、姫への気持ちだけは揺るがないんだよね。人間としては勿論、男としてもあんまり信用ならない感じなのにw、最終的に姫を救いだしてくれる王子様っぷりはかなりのもの。

おちくぼ姫は「すいません」が口癖なんだけど(常日頃から無理難題を押し付けられ、仕事に対してケチつけられているからなにかと言えば「すいません」と謝ってしまう)、高麗蔵さん演じる継母に「少将との結婚なんて絶対に許すもんか!」と言われたところで『お義母様、すいません(私は嫁に行きます)』と言い切った瞬間、これまでの「すいません」の連発とそれに対する少将の「またすいませんって言った」ってなラブコメツッコミはこのためのものだったのか!!とわかるんだけど、痛快かつ爽快であることに加え七之助さんの美しさに負けない隼人の美貌によってこの瞬間のカタルシスはけっこうなものだったわー。


みっくん嫁の新悟くんもよかったし、鼻デカ男(笑)の宋之助くんも男女の営みwを知ってる国生くんもよかったし、若々しくて清々しい、楽しくて華やかな納涼でした。
これで料金がもうちょい安ければ(一等12000円ぐらいなら)、普段歌舞伎を観ない人でもちょっと行ってみようかなーという気になるんじゃないかと思うんだけどなー。