桐野 夏生『奴隷小説』

奴隷小説

奴隷小説

表紙の裏に「私たちは、泥に囲まれた島に囚われている」とありまして、これは収録されている『泥』というそのものズバリなタイトルの中の一文なのですが、この作品が象徴しているように、一歩間違えたら絡めとられ呑みこまれ汚泥の底まで沈みそして浮上することはできない社会という“野蛮で残酷な牢獄”に囚われる人間を描いた短編集です。
時代や世界観が全然違う物語の中でやっぱり感じるのは女の逞しさなんですよね。

おまえたちは女である。だから、男に所属する物だ。男のズボンや靴と同じように、男の持ち物であり、牛や豚と同じように、男の家畜である。

絶望的な状況下でこんなことを言われても、それを諾々と受け入れはしない強さ。
一方で、どうしようもない現状から逃れるためには、状況を好転させるためには“女”を使うことを厭わない女もいて、その強さはやっぱり女だからなのだと思う。
そして男は逃げる。もしくは諦める。誰かのために何かのためにと自分に言い訳しつつ牢獄の中で生きることを受け入れる。
もちろん個人差はあるけれど、それでもそういう生き物なのだと思う。