月村 了衛『機龍警察 暗黒市場』

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)

今回の主役はユーリ・オズノフ。
ユーリが特捜部との契約を解除され、その理由は謎なままユーリはヴォルと呼ばれるロシアン・マフィアの大物になった幼馴染を頼り裏社会に生きる道を求めようとする・・・ってなところから物語が始まり、もちろんそこには事情であり作戦があるわけで、その中でユーリ・オズノフという男のこれまで、ユーリが特捜部の一員となるまでが描かれるのですが、ライザほどではないものの壮絶な転落人生すぎて、それはまさに異世界の話でしかないんだけど、でも彼らをもってしても顔色が変わるほどの“恐るべき項目の数々”で“こんな契約を交わそうと言う人間はごく限られるに違いない”と言うほどの内容を承諾し、龍機兵の搭乗員なんて仕事をしているのか、その背景としては変な言い方だけど申し分ないんだよね。それだけの経験をしてきた彼らだからこそ龍機兵に乗れるのだろうし、だから彼らでなくてはならないのだと。それだけの説得力があるんです。
そしてこれまたライザ同様ユーリの物語それ自体が面白い。そしてそこでの出会いが現在に繋がってる。現在に影響を与えてる。だから単なる“背景”“過去話”じゃないんだよね。
それがちゃんと「日本警察」の話、特捜部が<敵>と呼ぶ存在との戦いというシリーズの柱としっかり結びついていて、中国とロシアと日本という国レベルでの駆け引き、日本国内でも各省庁それぞれの思惑、さらに震災という現実もチラリと織り込み、それを宮城県警捜査員たちの想いとして描く。今回の“主人公”はユーリで、ユーリにしっかりと焦点が合ってるんだけど、それ以外の人物たちの動きであり想いでありってのもちゃんと描かれていて、それがシリーズ通しての積み重ねになっている。マクロの視点とミクロの視点、どちらも楽しめる。
今回特捜部は組対と共闘するんだけど、組対は組対でしっかりとドラマがあってそっちもそっちで読みたいと思ってしまうし、それからゲスト的なポジションで捜査に加わるユーリの元上司の存在感たるや。ユーリ・オズノフという男の最大の特徴は「元ロシア警察官」という肩書なわけで、当然過去編でユーリの刑事時代が描かれるんだけど、これがまたみんなキャラ立ってんだ。もうどこを切っても「面白さ」しかない。
ていうか捜査陣の焦燥感含め潜入捜査の緊迫感ハンパねえ。日本を舞台にしながらもこうまで面白い潜入捜査ってそうは読めないと思う。日本国内にある事実上の治外法権で各国の武器商人向けに新型機甲兵装のデモンストレーションとして機甲兵装同士が戦うというリアリティとは程遠い設定なのに、ベースにあるのは他国の脅威やテロなど現実に存在する「敵意」であり、それに立ち向かう捜査過程であり捜査陣(人間)は地に足がついているので臨場感が凄まじい。
そんな中・・・

 雪に埋もれていた木の根に足を取られた由起谷が体勢を崩して倒れた。横にいた夏川が手を差し伸べる。
 「大丈夫か」
 「ああ」
 由起谷の白い顔は夜目にも雪より白かった。昨年受けた傷がまだ完治していないのだ。吐く息さえも凍るようなこの冷気が由起谷の体に堪えぬはずはない。
 「無理するな。おまえはヘリに戻っていろ」
 「大丈夫だって」
 夏川の手を振り払うように由起谷は先に立って歩きだした。彼の気性は夏川もよく知っている。

こんなシーンもしっかりあるとか!!!!!!!!!!。
いやもうコレ、突然こんなものぶっ込まれるから思わず一旦本を閉じたよね。気持ちを落ち着かせるために。だって別にこの描写が必要ってわけじゃないんですよ!?。そのあとユーリが“なぜか夏川と由起谷のことを思い出す”ってな描写があるんで(これは心情描写としてアリです)その前フリと言えなくはないけど、それにしたって!こんな想像し甲斐のありすぎる!ごちそうシーンとか!!。


というわけで、次はいよいよ私の由起谷と城木がメインだという「未亡旅団」。新幹線の車内で組対相手に城木がみせた激情は次回への振りなんですよねっ!?楽しみすぎてすでに吐きそう(笑)。