月村 了衛『機龍警察 自爆条項』

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

これほんっとに面白い。
今回は世界中の裏社会に通じる「死神」のコードネームを持つ元IRFのテロリスト、龍機兵の搭乗者であるライザが主役の物語で、どのような環境で育ちなぜテロリストになったのかというライザの生い立ち・背景を描いた過去編と、現在進行形で起きている(起こされようとしている)事件の捜査が並行して描かれるのですが、二つの物語はまったくの別次元なんですよ。夏川と由紀谷が自分達が追う国際的テロリスト、それからライザについて考えたときに、二人が関係しているとされる北アイルランドで起きたテロ事件について当時の自分達にとっては別世界の話でしかなくて実感がわかないと言いあうんだけど、ほんとその通りなんですよね。ライザの過去はあまりにも別次元の話すぎる。でも「別の話」ではないんですよ。同じ警察という組織に属する者なのに、仲間である警察官たちから憎悪の感情をぶつけられる特捜部の中で、その特捜の捜査員たちからさらに疎まれる三人の搭乗者がなぜ現在の立場に自分を置いているのか、そこに繋がる話なのでぜんぜん別の話じゃない。
そして最後に明らかになる搭乗者が彼らでなければならない理由。タイトルでもあるその四文字が発せられた瞬間のカタルシスといったら!!。
さらに大半の捜査員にとっては実感がわかない別次元の話であるテロに直接関わり合いがある緑の存在。ライザが主役であるならばそこに緑の物語が絡むのは必要不可欠であるわけですが、そこを緑自身ではなく緑の父親をファクターにしたこと。これがすばらしく効いてるんですよね。過去編も現在編も殺伐とした空気感であるなか、緑の父親を間に介するライザと緑の描写だけが情緒的で、救いなんです。
シリーズの縦軸である<敵>の関わり合いも今後への引きを含め絶妙なバランスで、今のところ文句なし!!。
・・・といいたいところではありますが、イケメン担当の由紀谷の顔を殴る(殴らせる)とかー!!!(しかしあのタイミングで席を外す由紀谷は女神に愛され過ぎだと思うの)。