奥田 英朗『ナオミとカナコ』

ナオミとカナコ

ナオミとカナコ

親友同士の女二人がDV夫を殺すという犯罪小説です。
まず、殺人という行為にいたるまでの前半を「ナオミ」視点で、殺人後の後半を「カナコ」の視点で描いているのが巧い。夫にDV受けているのはカナコの方なので、ナオミは言って仕舞えば他人なわけで、だから冷静に計画を立てることができる。そこに殺人という行為に対する恐怖感のようなものこそあれ罪悪感なんてものは一切ない。一方カナコは夫の殺害後、自分たちの偽装によって“行方不明”となった夫の妻として日々を送るなかでどんどんと追い詰められていく。でもやっぱり罪悪感はないんだよね。二人とも殺さなきゃよかったと思うことは一度もない。このドライさ、この荒涼感は読んでいて気持ちがよかった。殺人話なのに。
でもカナコはともかくナオミがなぜ親友とはいえ他人のために殺人などという行為に手を染めようと思ったのか、そこの描写は薄いかなぁ。夢あって入った会社なのにその夢は一向に叶わずこれからも叶いそうにない。年齢も年齢だしってんで閉塞感を抱えていることはわかるし、そんなときに恐ろしいまでに厚顔で図々しく腹立たしいけどそこが魅力の逞しい上海女と出会い、スイッチ入っちゃったってのも心情としては理解できる。でもことは殺人です。人生破滅するかもしれないことをやろうと思うだけの動機としては弱いよなーと。そもそもナオミとカナコが“どの程度の親友”なのか、そこがわからないんですよ。なのに一緒に人を殺す。「裏切らないでね」と念を押しはするけど裏切られるんじゃないかと疑心暗鬼になったりはしない。そこが怖いし気持ちが悪い。
これ、女性作家だったら絶対描くと思うんですよ。お互いの相手に対する感情こそを描くと思うの。殺人に伴うアレコレのみならず、ナオミはバリバリ働いていてカナコは夫の暴力をただ黙って受けているだけの専業主婦であることをもっと深く抉ると思う。でもそういう要素は全くない。最初から最後まで楽しい女二人の友情物語。だから怖い。そしてそこが面白かった。