桜庭 一樹『ほんとうの花を見せにきた』

ほんとうの花を見せにきた

ほんとうの花を見せにきた

大陸から渡ってきたという竹のおばけ「バンブー」。見た目は人間そっくりの彼らは夜歩き、人の血を啜る吸血鬼。父親の不始末のせいで母親と姉が殺され、自らも殺されそうになった少年「梗」はバンブーによって命を救われた。
泣いた。電車の中でボロ泣きした。恥ずかしいから読むのやめようと思ったけど読み進めたい気持ちのほうが強くて泣きながら読みました。
少年を救ったバンブーは浅黒い肌に濃い顔立ちで睫毛が長くヒゲを蓄えた陽気な若者で(ヒゲを剃ったら美男子なのでは?という記述あり)『ムスタァ』という名前なんですよ。そして彼には共に暮らす相棒がいて、相棒は東洋人で繊細で整った顔立ちの基本敬語使いの穏やかで慎重な性格の若者で『洋治』という名前。二人は日中は「全裸」で「右の拳をお互いの胸にあてて抱き合うように」長持ちの中で眠ってて、日が落ちるとともに起きてきてお互いの服を着せあい髪をとかし身だしなみを整えあうのです!!(これにはちゃんと理由アリ)。ムスタァは黒いシャツで洋治は白いシャツ。それまでは無言で、まるで無声ボクシングのように淡々と機械的に身だしなみを整えあう二人だったのに、やがて助けた少年『梗ちゃん』の教育方針についてギャンギャン言い合いながら着せあいっこするようになるってもうこの設定だけで勝ったも同然でしょう!!!。
そこに梗ちゃんがムスタァと洋治の関係性に嫉妬する感情が加わりもうもうもうっ・・・て心の中でじたんばたんしてたらまさかその感情がこんなにも切なく哀しい選択を迫られることになってしまうとは・・・。
物語は全三篇で構成されていて、ムスタァと洋治と梗ちゃんの物語は最初の1篇。梗ちゃんが成長していくことで想いがすれ違ってしまいやがてそれは決定的な場面を迎えることになるんだけど、そこでキーパーソンとなるバンブーの少女・茉莉花の物語が2篇目(これがタイトル作)、そして日本にやってきたバンブーの「王」の物語が3篇目になるので3作全部通して『バンブーと人間』の物語、全て読んでようやくバンブーという存在の哀しみや苦しみ、孤独、ムスタァと洋治がなぜ梗ちゃんのことをこんなにも大切にしたのか、姿形が変わり成長する人間を、生きることを、梗ちゃんを『火』と呼び慈しんだのか、それが解るので3篇合わせての物語ではありますが、それでもやっぱり最初の1篇があまりにも切なすぎて哀しすぎて、そして美しすぎて。