柳 広司『楽園の蝶』

楽園の蝶

楽園の蝶

幻影城市と呼ばれる東洋一の映画の町を舞台に、甘粕事件の“その後”を描いた作品です。
キーワードは『昼の関東軍、夜の甘粕』。
甘粕事件、そしてそれを起こしたとされる甘粕正彦については、“関東大震災のどさくさに紛れて無政府主義を唱える大杉栄とその妻と幼い甥を殺害した事件であり、その後甘粕は短期間の服役後満州に渡ってなんかしてた”“一方で甘粕は軍の、もしくは誰かの罪を被った説もあり、真相は謎である”程度の知識しかない私ですが、それはそれこれはこれというか、甘粕は満州映画協会、通称『満映』に君臨する謎の理事長として(登場人物の一人として)読めました。
柳さんのイメージと言えば「スタイリッシュ」ですが、今回は「ムーディ」って感じ。いつもの硬質で端正な色気ではなくしっとりとした雰囲気が全体を覆い、物語のそこかしこに存在する『暗闇』が妙に淫ら。そしてそれは読み終わってみればこれが“女の物語”であることの補強となっていたと解るわけで、この計算されつくした世界にうっとり満足。やっぱり柳さんの作品は素敵だ。