辻村 深月『島はぼくらと』

島はぼくらと

島はぼくらと

帯に描かれた男女4人の高校生の紹介を読んだ瞬間は「ああ、いつもの感じね」と思ったし、そのなかの一人の女子目線で始まった話を読みだしてもしばらくそうだと思い続けてたのですが、全然違った。人口3千人程度の瀬戸内海に浮かぶ島の生活が、島で暮らす人々が、瑞々しくも濃厚な描写でもって存在していました。
私が辻村さんに抱く印象は、まさに4人ぐらいの高校生もしくは女性のグループの、人間関係を、一人ひとりの心情描写を、丁寧にかつ執拗に、新しい包み紙ではなく戴き物が包まれていた紙を丁寧に伸ばした再生紙で包むような、そんな作品を描く人、というものだったのですが、この人って、こんなに大きな範囲(世界)を描ける人だったのかと、こんなにも真っ直ぐな人間(たち)そのものを書ける人だったのかと、これはちょっとその認識を改めなければならないと、強く感じました。
中心(視点)となる高校生たちの心情描写は“お得意の”といった感じなんだけど、でも今まではもっと白黒で言えば黒い面に重心があったものがだいぶ白寄りになってて、それがこの作品に特化したもの(そういう作風だから)なのか、それとも辻村さん自身の変化によるものなのかは分かりませんが、でもこういうタッチの作品を描けるとなるとこの人ちょっと・・・本格的にステージ上がってしまうのではないかなと。それぐらい、これはイイ。