瀬尾 まいこ『あと少し、もう少し』

あと少し、もう少し

あと少し、もう少し

新聞の書評でとても気になった一冊で、初めて読む作家さんの作品です。
ていうか題材が「中学駅伝」って時点でもう読むしかないよね!(私は駅伝好きです。生まれ変わったら襷になりたい!(笑))。
中学生だと専門(陸上部員)ではなく他の部活動に所属する生徒の方が速かったりするので、学校行事レベルの駅伝大会に出場するためにまず陸上部部長による選手集めから始まり、なんだかんだでそれぞれ癖ありまくりの選手たちが集まり練習をこなし、本番の大会では各区間の走者の目線でそれぞれが駅伝を走ろうと思った経緯、あの時あの瞬間あの会話を交わしながらそれぞれが思ったこと、走りながら自分自身と向き合う姿が描かれ、ゴール=襷渡しの先にいるのはそれぞれにとって“特別な存在”なのです。
人間誰しも他者が思う自分と本当の自分は違うし、その他者が思う自分だって他者の数だけの自分がいる。それを描くのにやはり駅伝という題材は最適だと思う。自己と向き合うだけならマラソンでも短距離でもいいし、他人と繋がることを描くならば野球でもサッカーでもいいだろう。でも駅伝はその両方を描くことができる。個人で戦うスポーツでありながらも襷を繋ぐというその想いのためだけに走る究極のチームスポーツ、それが駅伝なんだよね。
で、この作品は襷を繋ぐ中学生たちがすごくリアル。特に陸上部以外の三人。キャラ的には金髪の不良にクールで知的な吹奏楽部員(サックス)に頼まれたら断れない明るいムードメーカーとテンプレすぎるんだけど、それぞれが“そういう自分”でいる理由がリアルなんだよね。男子中学生なんて縁遠すぎる存在のはずなのに、ものすごく共感できてしまう。
それに、襷を渡す相手はそれぞれにとって特別だと前述しましたが、当然そう描くつもりで関係性を“作ってる”のでしょうが、それが気持ちいいぐらいに自然。この子がこの子をそう思うのも、この子がこの子にそういう想いを抱くのも、どこも「分かるううううううう!」って感じなの。だからそれぞれがその相手に襷を渡す瞬間にグッとくる。
ていうか4区-5区-6区の流れがマジやばい!!。クーデレ渡部先輩にわんこな後輩俊介の関係性が一番好きだなーと思ったところで俊介のキャプテン・桝井先輩に対する複雑な感情が描かれ、そんでもっての「信用して」ですよ!!。あのシチュエーションであの人にそんなこと言われたらたまらんだろコレ!!。
ほぼ6人の選手プラス陸上素人の女顧問の間で展開し、あとは家族や友達がちょこっと顔出しするぐらいでひたすら各人の心理描写が続く形なので単調と言えば単調なんだけど、それでここまで読ませるのはすごいなー。
なにやら沢山刊行されているようなので、他の作品も読んでみたい!。