樋口 明雄『天空の犬』

天空の犬

天空の犬

タイトルと表紙に惹かれて完全なるジャケ読み。初めての作家さんになります。
警察犬の訓練士を目指す女性警官が民間の救助犬育成団体で研修中に東日本大震災が発生し、相棒であるボーダーコリーのメイと出動を求められる。派遣先の南相馬市で悲惨な光景を目にする女性警官だが、“共感覚”の持ち主である彼女には別の光景が見えていた。そこで受けた心的外傷の治療後、彼女はメイとともに南アルプス山岳救助隊への辞令を受ける。ってのが始まりで、予期せぬ辞令を受けた主人公の夏美が相棒メイとともに山で救助隊員として奮闘する日々を描いた作品です。
タイトルからしてもうちょっと犬目線というか、『山岳救助犬』の訓練や活躍にスポットを当てた作品を期待していたので、メイはともかく2頭の同僚犬がモブ扱いで残念でした。が、もっと半ドキュメンタリータッチというか、山岳救助の現場について調べたことの合間にストーリーが展開しているような、そんなようなものを想像していたものの予想に反していい意味でエンターテイメント性があって読みやすかったです。助かる人がいる一方で助けられないこともあるんだけど、作中では何度も涙が流れるもののタッチとしては冷静なんですよね。熱いんだけど目線はクール。読みながらNHKのドキュメンタリー番組を見ているような気分でした。
途中までは。
物語のメインイベントとしてあるVIPのお忍び登攀が用意されているのですが、これはもう大倉崇裕の山岳(アクション)小説を彷彿とさせる完全なるフィクションの世界。でもちゃんとそこまでに前フリとしてしっかりと種まきがされているので前半からの流れのまんま読み進められます。VIPそっちのけで女の戦いが始まったのにはさすがに笑ったけど(笑)。
ていうか、山ってさぁ、山ってやっぱ厳しいものなんだよね!(と今年の夏放送されていたなんたらレスキューとかいうドラマを思い出しながら)。