大倉 崇裕『凍雨』

凍雨

凍雨

亡き友の慰霊登山で殺人者集団と偶然出くわしてしまった元陸上自衛隊特殊部隊員が、同じく慰霊登山中だった友の妻子を守り救うため、山の中単身で戦う物語です。
特別な訓練を積んだ男が多人数の相手を1人また1人殲滅していく・・・ってな話となると私は深見真さんや福井晴敏さんを思い浮べてしまうのですが、深見さんほど“濃く”なく、福井さんほど“劇画チック”でもなくて、こういう題材でありながらもいい意味で淡々としたバトル小説でした。劇中ではばんばん人が死にまくるし、殺人者集団の中にはシリアルキラーもいたりするのでかなりハードな状況ではあるのに、どこか静謐さを感じる、というか。
確か大倉さんは過去にも山岳小説を書かれたように記憶しているので、恐らく山を舞台にしたのは“趣味”でしょうが、その静謐さは山の威厳から来るものなのかなーなんて思ったり。
そして私の知る限りこの手の物語で敵サイドにここまでドラマ性を持たせたのは他にはちょっとないかなぁとも思った。キャラ性ではなくドラマ性ね。それがあってのこのオチはかなりカッコイイ。
しっかし小説の中にこれだけ登場するからには現実にこういう特殊部隊が存在するのでしょうが、実際のとこその“能力”ってのはどれほどのものなんだろうなぁ。