永瀬 隼介『帝の毒薬』

帝の毒薬

帝の毒薬

帝銀事件の真犯人は大戦中満州で細菌兵器の開発を行っていた“倉田部隊”の関係者だった・・・!?という物語なのですが、史実を詳細に調べあげ、それをフィクションの中にギリギリまで織り込む手腕はさすがの一言。やっぱり永瀬さんは現実に起こった事件を“モデル”というか“下敷き”にして完全なるフィクションとして描くよりも、事件に独自の解釈だったりアレンジだったりを加えるノンフィクション要素が入った作品の方が俄然濃度が高いと思う。
で、そういう作品はそのノンフィクション部分の濃度と比べフィクション部分の濃度が明らかに薄いのでいつもそこが勿体無いなぁと感じていたのですが、今作はむしろフィクション部分の方が面白く、特に“倉田部隊”の関係者がどいつも(よくも悪くも)狂ってて、それがこの時代の空気とマッチしていて全編通して非常に濃かったです。まぁ結末が駆け足というか、やや投げた感じはありますが、それも含めて「時代」を感じさせる、久々に読み応えのある永瀬作品でした。