小林 朋道『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学

大学の周辺には森や河川、池などがあり、キジがキャンパスを歩いたり、カルガモが緑化された屋上に巣を作ったり、タヌキが学内の道路を横切ったり・・・・・・・・・いわゆる自然に囲まれた大学である。
(中略)
研究室の窓のブラインドを上げたらヘビがとぐろを巻いてこちらを見ていたり、飼育水槽から逃げ出したイモリがドアの隙間から廊下へと旅立っていく。

という夢のような環境である鳥取環境大学で起きた動物に纏わる事件を、この大学の教授である先生が専門の「動物行動学」やそれを人間という動物に応用した「人間行動学」という視点から描いた作品で、先日刊行された最新作が6作目となるシリーズのこれが1作目になります。私が普段読んでいるものとは全くの畑違いなのですが、たまたま最新作のレビューを目にしやけに興味が湧いたのでまずは1作目を手に取ってみました。
実際に学内(というか先生の周辺)で起きた事件・・・・・・・・・というほどのことでもない話がたくさん収録されているのですが、妙な味がある。話は結構脱線気味というか、オタクの人ってオタク話してるといつの間にか違う話になってていつの間にか元に戻ったりしがちじゃないですか(笑)、先生をオタクというのはちょっとどうかとは思うし書かれているものをオタク話と一緒にするのもどうかとは思うんだけど、でも・・・・・・・・・・・・・・ぶっちゃけオタクやん?(笑)的な感じなんで、純粋に技術という意味での読み物の質としてはちょっと低いかなと云わざるを得ないところなんだけど、でも内容そのものは面白い・・・・・・とはちょっと違うんだけど、なんていうのかなぁ・・・・・、やっぱりこの表現しか見つからないんだけど『味』があるんです。
それは多分この「小林先生」という人の魅力とイコールなんじゃないかなぁ。作中で主にイニシャルとして登場する人たちは全て実際の生徒さんであり同僚の方たちであると思うんだけど、割と容赦ない感じなのね。例えば小っちゃい島でひとりぼっちで生きてる雌のシカを先生(と生徒)が偶然発見するという話があるのですが、別の生徒が卒論でその鹿の研究をしたいと言うと“あまり他人には侵入して欲しくない領域だけど真面目な生徒だからまぁいいかと許した”とか書いてて、いや別にそれ先生の鹿じゃないし、生徒を「他人」って言い方するのはどうなんよ?とか思ったし(笑)、複雑骨折をして飛べなくなった鳩を自宅に連れ帰り妻子共々可愛がってるという話の中で、庭に放してる時は絶対に鳩から目を離さないという家族間ルールがあると何度も明記しておきながら庭で見つけたカナヘビの交尾写真を撮るためにカメラを撮りに自室へ戻った“ほんの一瞬の間”に鳩が猫に咥えられ攫われそうになったところを危機一髪助けることが出来た→“悪いのは自分じゃない、カナヘビだ!”って、いやいや悪いのはあんただから(笑)カナヘビのせいにすんじゃねー!!みたいな感じで(笑)、なんか妙に面白いの。
正直動物行動学(動物の話)から人間の脳の仕組みに繋げるくだりは無理やりというか蛇足な感じすらするぐらいなので、そういうものを期待して読むと肩透かし喰らいそうではありますが、“動物オタクの人の話”のつもりで読むと結構楽しい(笑)。好きなものの話をしてるオタクは美しいと私は思います。イラっとすることも多いけど(笑)。