桜庭 一樹『傷痕』

傷痕

傷痕

全くどうでもいい話ではありますが、私「傷痕」という言葉がとても好きなのです。肉体的であれ精神的であれ「傷」ってのは痛いもので、その「痕」にはその傷を負った時の痛みが縫いこまれているわけで、それは戒めだったり後悔だったりする一方で、どこか甘美でもあり・・・。それに単純に文字の形と“キズアト”という音の響きも好き。こっちについては理由はよく分からないけど(笑)。なので桜庭一樹が「傷痕」という小説を出すと聞いた時からとても楽しみにしてた作品です。
巻末の参考文献を見れば一目瞭然ですが、マイケルジャクソンと彼が作ったネバーランドを思い起こさせる「この国の生きる伝説であるキング・オブ・ポップ」と彼が娘とともに住まう「楽園」を、彼をあらゆる形で愛してやまない人達の目を通して描いた物語であり、同時に語り部たちの物語でもあります。そしてタイトルである「傷痕」とは、彼のたった一人の娘の名であり、彼が人々に残したもの。語り部となるのは彼に最も近い存在である姉から、ただの“一ファン”まで幅広く、彼との物理的距離はそれぞれ全く異なるんだけど、でもそれぞれ“彼との間に”自分だけの、自分なりの思い出があって、それらが彼を偲ぶ集まりの場面で膨らんで膨らんで膨らんでそして弾けるのです。運転手→SP→ファンの流れは泣けてしまった。彼らだけの思い出はきっとそれぞれの人生を豊かにしてくれるんだろうなぁ。哀しいし寂しいし切ないんだけど、その気持ちはとても甘い。
音楽って、それを届けてくれる人って、やっぱりすごいなと頭ではなく心で感じました。もちろんそれを物語として奏でる桜庭さんも。
震災があって、多くのアーティストが心に傷を負った人達にあらゆる形で歌を届けようとしていて、もしかしたらその場では直接“役に立たない”と感じた人もいるかもしれない。だけどいつかその歌を聞いた時のことを思い出し、それがまた違う思い出を、一緒に聞いた人のことだったりその時の気持ちだったり、そんなものが自分の中にあることに気付き、それが心を温かくしてくれるかもしれない。それはつまりその人にとっての傷痕なんだよなぁ・・・と、そんなことを思いながらじっくりと読みました。素敵な本だー!。


この本の感想とはちょっと違うんだけど、彼の姉・孔雀のこの言葉が胸にグッサリ刺さりました。

「人というのは、自分を基準にして物事を判断するものよ。あの子のことだってそうだわ。善良な人は、あの子の優しさや善意をまっすぐ信じる。そして不幸には同情してくれる。一方、心の奥に悲しみや怒りを多く溜めている人は、あの子の姿に自分の翳を投影して、あれこそが悪だと糾弾しようとする。(後略)」
「いつの世も、スーパースターってのはみんなの心の鏡なのよ。(後略)」

長年誰かの「ファン」・・・・・・というよりも世間一般からすると「オタク」と言うほうが近いような人生を送っているわけですが、その“誰か”とは変わっていくもので、でもそれって何なのかなぁ・・・とぼんやり考えてるところだったんで、そんなところへこの孔雀の言葉は痛かった。結局私がしてることってのは私の“スター”に対し一方的に理想とか物語とか、それら全てをひっくるめて身も蓋もない言い方をするならば妄想を押し付けてるだけであって、妄想できなくなったら(妄想するだけの価値を見出せなくなったら)別のスターに乗り換えると、私がしてることってのはそういうことなんだよなぁ・・・・・・と。
まぁ何が言いたいかと言うと、結婚おめでとう!って思ってやりたいけど無理!!!ってこと(笑)。