中山 七里『贖罪の奏鳴曲』

贖罪の奏鳴曲

贖罪の奏鳴曲

初めて手に取った作家さんの作品です。
実力は折り紙つきの悪徳弁護士によるノワールものかと思いきや実は・・・という展開そのものも面白かったし、その過程で描かれる医療少年院のパートも法廷パートもそれ単体で楽しめるほどでした。が、ドーベルマン刑事が目を付けた主人公の行動ではなく心情、何を考え何を感じていたのかを追いかける形で主人公を描いているのですが向かってる方向がいつのまにか逆になってて、私が読みたいと思った主人公の原点、過去の事件の「動機」は結局曖昧なままだし、ノワールものなのかと思った理由である法外な報酬を求める意味もよく分からなかった。得た報酬の使い道は描かれてるんだけど、でもその出所を思うと果たしてそれが『贖罪』になるのか?と思うんだよなぁ。一方で目に見える形での利益はないに等しい国選弁護人を引き受けることでバランスを取ってるというならば、その行為の根底にあるのはやはり過去の事件の動機だろうに。肝心(だと私は考える)のソコが曖昧なもんで、結局主人公がどういう人間なのかも曖昧なままで終わってしまったように思う。
でも繰り返しになりますが、医療少年院内で主人公が出会った“音楽”の話や、判決を覆すのは難しいと思われた裁判を引っくり返す流れはなかなかに劇的で読み応えはありました。総合的に見ると面白かったと言えるかな。他の作品も読んでみようと思います。