『新春浅草歌舞伎 第1部』@浅草公会堂

入り口に飾られた出演者のお名前を眺めながら、こうやって「市川亀治郎」と「中村隼人」のお名前が一緒に飾られることはこれが最初で最後なんだなぁとか思ったらちょっと泣きそうになりました。


というわけで、例によって「亀ちゃんがお年玉の日に行きたい」という亀オタママンの絶対に揺るがない命令に従い、亀治郎さんのお年玉回に入りました。演目的には1部一択(2部は隼人でないから)だとして、わたしはせっかくだから隼人かみのたんのご挨拶日に入りたかったのにー!。


でもいつもは軽妙な語り口で時事ネタを入れつつちょっと砕けた感じで挨拶し客席を暖める亀治郎さんなのに、今回は笑わせる感じ一切なく「自分を育ててくれた浅草への感謝」を述べる内容だったんで思わずじいいいいいいっんと涙ぐんでしまいました。“お年玉ご挨拶は自分たちの代が始めたことだが、最初は緊張のあまり何を喋ったのか全く覚えてないぐらい真っ白になっていたものの、今回初参加となる若者たちは非常に堂々としていて、挨拶だけでなく芸もしっかりしていて頼もしい”というようなことを仰っていて、もうこの空間で亀ちゃんを見ることはないんだよなぁって、それどころかもう「亀ちゃん」とすら呼べなくなってしまうんだよなぁってことが初めてというかようやくというか、「実感」できてしまって、ものすごい寂しさに駆られました。
が。
最後は「本日はWOWOWさんが入ってらっしゃるということでね、わたくし現在BS朝日にて毎週火曜日に「知られざる物語 京都1200年の旅」という番組をやっておりまして、さらにTBSにて「運命の人」というドラマに出ておりまして、さらに映画の公開が2本控えております。全て他局ですけどね!あえて他局の宣伝をいたします!」とやっぱりいつもの亀ちゃんにwww。
そうなの。この日はWOWOWのカメラが相当台数入っておりまして、当然「市川亀治郎 最後の浅草歌舞伎」としての放送になるのでしょうからなるほど、それ仕様の挨拶なのねと(笑)。


南総里見八犬伝
ご挨拶の中で亀ちゃん自ら「原作は皆さんご存知の通りとても長い物語でして、その中から「富山山中の場」「大塚村庄屋蟇六内の場」「円塚山の場」という3幕を見ていただくことになるので話の筋はわからなくて当然です(笑)。なんとなく話が進んでなんとなく八犬士が全員勢ぞろいしたら終わり、と思っていただければ(笑)」と言っていた通り、ものすっごいダイジェストな作りでワロタw。
ざっくりとした流れとしては、
伏姫から八つの玉が飛び出し散逸→信乃さんと浜路のイチャコラ→“二世の女房”を残しお家再興のため出立する信乃さん→蟇六&亀篠の強欲夫婦によって無理やりアホ代官と結婚させられそうになる浜路→左母二郎に攫われる浜路→道節が危機一髪のところで左母二郎を斬り、浜路を救い兄妹の名乗り→どこからともなくいきなり現れた八犬士による名乗り
とまぁこんな感じ。亀治郎さんが庄屋蟇六と犬山道節の二役を勤められるせいか、八犬士ではなくむしろ浜路の物語状態(笑)。でもそれはそれでちゃんと流れがあって上手いこと作ったなーとは思った。
まず「富山山中の場」。八房とともに富山山中に篭る伏姫が、そのようなことをしたわけではないのに自らが身ごもったことを知り八房を殺して自分も死ぬと決意したところから始まるのですが、八房コエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!(笑)。白い身体に目の周りが紅く縁取られているという原作通り(?)の造詣なんだけど(中に人入ってます)、怖い!ひたすら怖い!w。
でも里見家の忠臣、男女蔵さん演じる金碗大輔によって放たれた銃弾で死んじゃうのはやっぱり可哀相(´;ω;`)わんこなにも悪くないのに(´;ω;`)今も昔も人間こそが悪魔だと改めて思う(´;ω;`)。
春猿さんの伏姫は気高さと力強さが同居してて、まさに「姫」。この姫ならば犬の子を処女懐胎という超展開もあり得ると思わせるだけの“神秘性”と立ち上るような“妖気”があって、大変素敵でした。


続いては「大塚村庄屋蟇六内の場」。原作一番人気の信乃さんを恋人・浜路の血の繋がりはない強欲両親が甚振りまくるという場面なのですが、この長大な物語のうちごくごく一部しか上演できないというのに何故この場面をセレクトしたんだっ!(笑)。そして何故この場面が第一部最大の見所になっているんだっ!(笑)。
なにこの亀治郎オンステージ(笑)。
庄屋蟇六と女房亀篠は絵に描いたような意地悪じいさん&ばあさんでして、それを演じる亀治郎さんと竹三郎さんがめったくそ楽しそうなの(笑)。今回は出演者がグッと若返ったこともあって舞台上はもう『必死』という文字が浮き出てるがごとき空気感なんだけど、そんな中でこの二人のフリーダムっぷりはひどい(笑)。花道から登場し年始の口上を述べるんだけど、娘(養女)と結婚する代官から持参金をもらえるとウッハウハというシチュエーションなんで客席を嘗め回すように眺めそして目下の客に視線をロックオンし「ニヤ〜リ」と笑うその表情だけでこの夫婦がどんな人だか分かってしまう。歌昇さん演じる信乃さんと壱太郎さん演じる浜路がもうピュアそのものって感じの二人なので、演じてる役的にもそれから役者的にもそんな二人をじわじわネチネチ苛める亀ちゃんと竹三郎さんが憎らしいのなんのってw。
特に素晴らしかったのが浜路に代官との縁談(仮祝言)を受け入れさせる場面のなんちゃって切腹な(笑)。お前が承諾してくれないのならば腹を斬るしかないと浜路を脅迫するんだけど、悲劇のヒロインにどっぷり浸りきってて蟇六夫妻をガン無視する浜路に気付いてもらおうとあれこれしたり、気付いてくれないからもう一回最初からやり直したりとやりたい放題(笑)。亀ちゃんって元々特に女形でのこういう芝居上手いと思うんだけど、外部舞台や映像仕事を沢山こなしいろんなタイプの役者と芝居したことでますます引き出しが増えたというか、この手の芝居が“濃ゆく”なったと思うw。
それと同時に、竹三郎さんがそんな亀ちゃんをしっかり支えてくれてるからなんだろうなぁと。まさに長年連れ添った似たもの夫婦といった感じで息ぴったりに若者二人を甚振る甚振るw。竹三郎さんは身体のキレも表情の作り方も声の通りも御年80歳とは到底思えん。
オメッティのアホ代官との絡みは絵面もやってることも100%コント(笑)。ダンマリエグザイルしてる時の亀ちゃんのドヤ顔イラっとするわーーーーーー!(笑)。でも最後は劇中で使った小道具を使用し、代官(+部下)と協力して干支である龍の舞を披露してキッチリ締める小粋な演出で、いやー、面白かった(笑)。笑いすぎて涙でたもん。
で、わたしのお目当てであった歌昇くんとカズの若いカップルですが、カズの浜路がものすっっっっっごい可憐なの!!!!!全体的にぽってりとした所謂男好きのするタイプのオナゴで、そら村にこんな娘おったら男どもが我がモノにしたいと思うのも分かるわー!ってな浜路なのよ。でも最後の時間を二人っきりで過ごす・・・って何やってんだお前らーーーー!という空気もちゃんと出せててw、コチンコチンの歌昇くん信乃さんの雰囲気と相まって「大人しそうな顔して最近の子は進んでるわねぇ〜」ってな感じw。


「円塚山の場」ではそんな浜路が亀鶴さん演じる浪人・網干左母二郎に騙され連れていかれた山中で俺の女になれならないならば死ねと迫られるんだけど、私は身も心も信乃様の物なので誰にも許しませんと必死で逃げようとするもほどかれた帯をつかまれ引き戻される→逃げる→引き戻されるってのが非常に・・・・・・ガチっぽくてよろしいです(笑)。この亀鶴さんの左母二郎がいい感じに893でね、着物のすそをぐいっとめくって出した足に浜路の帯と巻きつけ足一本で引きとめるたりとなかなかの色悪っぷりなの。だから可憐なカズ浜路の絶望がより一層際立って見えて、いやはやいいもの見たなという気分w。
ついに左母二郎に斬られてしまった浜路が「こんなどことも知れぬ山中で、信乃様にも会えず本当の家族のことも知らずに死んでいかねばならないとは悔しくてたまらない」と嘆くと、左母二郎が手にしていた本物の村雨丸が背後の火定に吸い込まれ、入れ替わるようにして何者かが現れ左母二郎を退治してくれるのです。その人物とは浜路の実の兄である犬山道節で、意地悪じいさんとはうって変わって怪しくも凛々しいお姿の亀ちゃんでございますよ。こちらはもう遊びなしで真っ当に演じてらっしゃいまして(当たり前だw)、命の灯が消える寸前の浜路に兄と名乗り、そして優しく看取ってやる素敵なお兄様でハァーーーーーーン><。
で、次の瞬間どこからともなく八犬士がワラワラと現れてw、ダンマリから一人ひとりが名乗りをあげるんだけど、最後の一人が名乗り終わり全員で決めポーズびしいいいいっ!と決めた瞬間、戦隊よろしく背後でドカーーーンと爆破した映像が見えて笑ってしまいましたw。これヒーローものだから間違ってないよね?w。
お目当ての隼人は親兵衛たんとしてこの場面(時間にして10分ぐらいか?)だけの登場なので、全力ロックオン状態でしたが、動きが固い硬い軽い!。ドッキドキして口からさっき食べた隼人の好物である梵のカツサンドが出そうになった名乗りもぶっちぎりで下手で(ノ∀`) アチャー。そして化粧した顔が獅堂にそっくりで本気で白目りました。似るのは顔だけにしてね隼人・・・。
隼人ロックオンといいつつ視界に入るとついつい目で追ってしまった人がおりまして、それは誰かと申しますと・・・・・・・・・犬村大角の巳之助さんです。だってみのたん・・・・・・・・ねずみ男みたいなんだものwww。灰色の着物を着てたこともあるんだけど顔ってか頬のあたりがゲッソリこけてて、それプラスあの口元ですからどっからどう見てもねずみ男にしか見えんw。八犬士が出てきた瞬間、まず隼人を探したでしょ、そこから一応全員をひとりひとり双眼鏡で確認したんだけど、みのたんねずみ男が双眼鏡の円内に入った瞬間多分わたしの頭上に「ギョッ!?」って噴出しが出てたと思うw。みのたんですら浅草に立つプレッシャーで痩せちゃったのだろうか・・・。
なかなか良かったと思うのが種之助くんの犬田小文吾。ミニサイズの相撲取りって感じで可愛かったw。
あと薪車さんを初めて生で見たんだけど、確かに男前(イケメンではなく男前、もしくはハンサム)ですね。
原作でわたしが好きな毛野さんは米吉くんが演じてましたが、元がイケメンな隼人と歌昇は化粧するとその顔面力がガクっと落ちてたのに対し、米吉くんは化粧映えするなーと思った。
愛之助さんはさすがのオーラ。


そして最後は一人残った亀ちゃん道節による幕外の引っ込み。飛び六法で去っていくという最後の最後までザ・亀治郎でございました。


『夕霧 伊左衛門 廓文章』
松嶋屋お家芸とも言える作品を愛之助さんが初役として勤めるということで「どんなもんよ?」というなにさま目線で見た・・・・・・・・・・・・・・・・つもりなんだけど、半分ぐらい寝ちゃった^^。ラブの伊左衛門は気のいいイケメンなんだけど(お目当ての夕霧が他の座敷に呼ばれてると聞き、広い吉田屋(まじでどんだけ広いねんw)をトテトテと走って夕霧の姿を探し、見つけたら「いたーーーー!」とニンマリするのがアホ可愛いw)豪商の御曹司にしてはイマイチ品がないように感じてしまってさして魅力的には見えなかったし、カズの夕霧に至ってはこんなおぼこい「太夫」はいねーだろうとw。決定的に色気が足りん。ラブのこってりとした色気の相手としてはまだまだまだまだすぎて、むしろラブ伊左衛門が変態に見えるんですけど・・・・・・とか思ってるうちに寝てた^^。だって竹本と常磐津を存分に使い、更に長唄をBGM扱いという贅沢な舞台だったんで、それに耳を傾けてたら気持ちよくなってきちゃったんだもん^^と言い訳^^。
竹三郎さんの吉田屋の店主・喜左衛門と春猿さんのその女房・おきさは良かった!。お二人とも八犬伝とは真逆の役ですが、喜左衛門は賢くて優しいオジサマ、おきさは気風のいい姐さんって感じで、この夫婦は脇を固める役でありながら一見の価値アリですよ!。ていうか今思えばわたしが寝たのはお二人が引っ込んだ後、つまり伊左衛門と夕霧のみの場面になってからだ(笑)。



どちらの演目も竹三郎さん、春猿さん、男女蔵さん、亀鶴さんが脇と土台をしっかりと固め、その上で経験が少ない若手が真っ直ぐ必死で演じ、そして亀治郎さんと愛之助さんがそんな若手を背中で引っ張るという、新年の浅草に相応しい華やかで気持ちのいい舞台でした。来年からはカズ・みのたん・歌昇くんあたりが中心となり、亀ちゃんたちが作った浅草歌舞伎を引き継ぎつつも新しい自分たちの代の浅草歌舞伎を作っていくんだろうなぁと思うとワクワクするぞ!。