[B]乙 一『箱庭図書館』

箱庭図書館

箱庭図書館

読者が送ってきた原稿に乙一さんが手を入れ(あとがきを読むと手を入れた度合いは異なるようですが)物語を『再生』させるという企画だそうで、確かにこれまで読んだ乙一作品とは雰囲気がちょっと違う印象を受けました。よくも悪くも。
とは言え乙一さんの“新作”を読むのはかなり久々だし、読者(私)はともかく乙一さん自身も何がしかの成長であり変化はあるでしょうからその印象が企画によるものかどうかは分かりませんが。
よくも悪くもの「よくも」の方は以前よりも小説世界が外に開いているように感じたということ。人と繋がりたいとか優しくされたいとか、そういう欲望が健全で、それが読みやすさに繋がってると思う。ある人物を全体を通して登場させることで(原作者が違うし)元は全く違う世界観のはずなのにちゃんと乙一作品として統一された世界観になってるのもその読みやすさを補強してて、さすがだなと。
「悪くも」はその読みやすさが物足りなさにもなっちゃったかなーと。元々決して読みにくい話を書く人ではないと思うのだけど、それでも必ず心のささくれに引っかかるような何かはあって、そこをあえて引っ張ってみる感じというか、へんな言い方だけど自傷してるかのごとき気分になるのが私が思う乙一小説なので、そういうのは少なめだったなと。