桐野 夏生『優しいおとな』

優しいおとな

優しいおとな

ストリートチルドレンの冒険譚であり成長物語が、一歩間違ったらラノベじゃね?と言われそうな軽いタッチで描かれているのですが、少年が愛憎反する思いを抱き続けた相手の真意というか、少年の生い立ちそのものに仕掛けを施すことで、いつもながらのしっかりとした後味の悪さを残す作品でした。恐らく貧困家庭であったり子供の養育環境問題であったり、そういう社会問題を想定して描かれた物語だと思うのですが、桐野さんであれば母親目線であれ子供目線であれNGO等の第三者目線であれ、リアルにエグく描く事は出来ると思う。でもこうやってファンタジックに描かれた方が却って『危機感』が煽られる気がした。だからと言って自分一人生きることすら精一杯すぎる私に出来ることがあるか分からないけれど。