中村 文則『悪と仮面のルール』

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

私にはこの物語は「生と死(殺)」「善と悪」相反する二つの片方を選ぶことを「定められた」男が自分なりの「愛の形」を求め貫く物語・・・と読めました。もちろん世界はスッパリと二つに分けたりはできないし、例え自分なりに線引きをしたとしても、その時々でその線引きが変わるのが人生というものなのだと思います。そこで中村さんは思いっきり片側に立つことを定められた男の視点でもってその線引きを描こうとしたのかなぁと思いました。こちら側からあちら側へ移動するのは主人公にとって「ルール違反」で、そのルール違反を自分では否定しながら作中の他者によって肯定させる。このところ圧倒的で問答無用の悪を描く中から「生」を浮かび上がらせる作品が続いているように感じているのですが、この作品は最終的に「救済」(と取れる)で終わることでその流れを汲みつつこれまでで最もエンターテイメントしてる作品だと思いました。
だってこれ、ものすごいザックリとあらすじを語ると実家が大金持ちのため金には困らない男が、大好きな『白ワンピースのあの娘』を『損なおう』と狙う(男の)父と兄から守る話ってだけなんだもん。「家系」も重要な鍵の一つなので、いろんな要素が時代をまたぎ織り込まれている結構壮大な物語だと思うのに、でもものすごく小さい物語にも思えるわけです(笑)。そこに『邪』だの『戦争』だの『テロ』だのそそられる単語が散りばめられ、渋い探偵とその美人助手や男のソウルメイトとなるテロリスト、ワケありっぽいまぁまぁの女(美女というほどではない)などなど雰囲気がある脇役が絡むので、主人公がうじうじと自問自答したりダラダラと他人に語る言葉を聞き流しても(流し読みしても)充分楽しめる。もちろん中村文則という作家の肝はその「うじうじ」であり「ダラダラ」にあるわけだから読んだほうがいいに決まってるんだけど、でもまぁ・・・頭痛くなっちゃうんで(笑)、それを抜きにしても楽しめるものを書いてくれたってことは中村さんがまた一つ違う場所に立ったということだと思うので、それはファンとして嬉しい限りです。

この装丁タイトルと合わせてデス●―トを思い起こさせるのであまり好みではないんだけど、でも売れそうな気がする。