『龍馬伝』第19回「攘夷決行」

南朋さんの武市半平太としてはこれまでで最高でした。あの愚かさと潔さ、全部ひっくるめて強引に表現するならばやっぱり『悲哀』という言葉になるのかもだけど、龍馬にまた会おうと告げ颯爽と「侍として」土佐へと向かう武市さんの背中は本当にカッコよかった。自分の見たいものしか見えなくなってるというか、とにかく「尊皇攘夷」という信念をそれこそ信じきってる武市さんだけど、馬鹿ではないわけだし、これまでの仕打ちや大殿様から賜ったお言葉や、あとまぁ土佐藩としては何ら動こうとしない状況なんかから、さすがに自分(達)が思い描いていた“土佐藩が攘夷の旗頭になる”という目的の雲行きが怪しくなってきてるってことぐらい薄々気づいてたんじゃないかとは思うのよ。でも「主君を疑ったら侍ではない」んだよね。下士という身分でありながら、下士という身分であるからこそ、「侍たらんとして」その思いを打ち消して今日まできたんだと思う。自分(達)の手で約束を成しえこの日こそはと願った攘夷実行の日に結局なんの指示もなくなにもできなかったとしても、それでも大殿様への忠誠心は揺るがない、揺るがせてはならないと思っていたんじゃないかなと思う。そこへ龍馬が現れて、容堂公は武市さんを嫌ってると、なぜなら右腕だった吉田東洋を殺したから、そして勤王党は下士の集まりだからと聞かされて、その想いもさすがに揺らいだんだろうな。もう南朋さんの本領発揮とばかりに目が泳ぐ泳ぐ・・・。でも揺らいだのはほんの一瞬で、次の瞬間には即己を立て直し、ワシは大殿様から菓子を貰ったんだぞと言う武市さん。これさ、龍馬に言ってるのももちろんあるだろうけどそれよりも自分に言い聞かせてる方が大きかったんだと思うなぁ。だってそうじゃないとこれまでやってきたこと、以蔵にやらせてきたこと、そういうものが全部無駄になっちゃうもん。その上で収二郎を助けるために土佐へ戻るという武市さんは、みんなに慕われ頼られる気のいい兄ちゃんの顔だったと思う。土佐へ戻ったら捕まることが分かっていても、龍馬に行くなと懇願されても、それでも収二郎を助けにいかなくちゃならないと言える、そして戻ってきたら海軍に入ると言える武市さんだからこそ、これまでみんながついてきたんだよな・・・と。でもみんながみんな武市さんのようにはいられない、幼い頃から共に過ごした仲間だからってみんなが同じことを考えるわけじゃないんだってことに武市さんが気づかなかったことが、たった一人広い屋敷に残された(残るしかなかった)理由なのかな・・・と。そして武市さんはその責任を取るためにも幼馴染の収二郎を救うために土佐へ戻ると決意した。桜舞い散る中去っていく武市さんの背中はこれまでの全てを背負う覚悟が滲みまくってる「侍の背中」でした。素敵だったな。


とまぁラスト10分は南朋さん武市好きとしてはもうタマラン時間だったわけですが。それはそうとして、武市さんって、収二郎や以蔵を『駒』だなんて思ってましたか?。わたしはとにかく武市さん派というかもう見方が完全なる武市さん寄りになってしまっているので特に武市さん絡みの部分は客観的に見ることができなくなっているのは承知してますが、わたしには武市さんが二人だけでなく土佐勤王党の仲間たちの誰一人として駒だと思ってるようには見えませんでしたが。
確かに以蔵の事は利用しました。以蔵の「気持ち」を利用していやな役目を担わせていたのは事実です。でも武市さんは決して以蔵を駒として扱ったわけではないと思う。武市さんは攘夷を実行するためなら邪魔な者を力でもって排除する必要があるって本気で思ってて、そんな武市さんの思いは勤王党全員共通だと信じて疑ってなかったと思うのよ。実際以蔵だって最初はノリノリで龍馬にアイツ殺したのオレオレ!って言おうとしてたわけだし、武市さんは以蔵もまた攘夷のために働いていると思っていたのだと思う。まぁ例えとは言えども「飼い犬」発言しちゃったあたり、以蔵が「大義」とは「攘夷」とはなんたるかということをちゃんと理解してはいないだろうとは思ってたっぽいけどさ、馬鹿だから人斬りをさせてたのではなく、以蔵がやれることが人斬りなんだと思ってたんだと思う。武市さんが責められるとすれば以蔵が苦しんでいることに気づいていたにせよ気づいていなかったにせよ、以蔵の自分への想いを自分が掲げる「攘夷」にすり替えることで誤魔化したというか、「自分のために」=「攘夷のために」としたことだと思うのね。でもそれは武市さんと以蔵の仲だからであってさ、武市さんは以蔵だからそういう扱いをしたんだと思うし、以蔵もまたそれを命じたのが武市さんだからこそ受け入れたんだと思う。
で、そこいらへんを中途半端に関わっただけの龍馬にとやかくってか「駒」だなんて言ってほしくないわけですよ。龍馬が友達だと思ってるらしい以蔵はまだしも収二郎を駒扱いしてるだなんてどうしてお前が言い切れるのかと。ていうかこの時の龍馬の立場って“幼馴染として”武市さんと収二郎・以蔵の間に立ってるってことですよね?龍馬の発言は幼馴染としてのものなんだとわたしは受け取ったんですが、とすれば幼馴染を「駒」呼びするのってどうなんよ?と思うよなぁ。そんでもって武市さんに「容堂公は武市さんを嫌うちょる」だもん。今回ようやく気づいたんだけど、龍馬って言ってることは間違ってないんだとは思うんだけど、言い方がキツいんだ。相手の気持ちを全く考えてないモノの言い方なの。だからムカつくんだってことにようやく気づきました。攘夷と言っても大きな攘夷と小さな攘夷があって、勝先生や龍馬は大きな攘夷であり武市さんは小さな攘夷を目指していると。それはもう生きてる世界が違うことと同じようなもので、だから大きな視点で物事を見て判断して語る龍馬の言葉が武市さんに届かないんだとかいう以前の話でさ、龍馬の喋り方そのものが嫌いなんだな。ここまでくるともう見るなよ(笑)ってなもんですよねーw。
でさ、二人を武市さんに合わせたこの場面なのですが、収二郎はあれ偶然以蔵と龍馬が酒呑んでるところに出くわしゴチャゴチャ揉めてるところを容堂に唆され朝廷と接触した罪で土佐藩の役人?に捕らわれそうになったわけですよね?。で、以蔵に収二郎を連れて逃げろと龍馬が指示したと。だからその後で二人と龍馬が落ちあうのはいいんだけどさ、そこで二人まとめて武市さんに引き合わせるのが分からない。形としては二人とも武市さんを裏切ってたわけで、そのことを弁解したいと思っていたものの言い出せなかったから龍馬がセッティングしてあげたってなことなんだろうけど、収二郎の「裏切り」と以蔵の「裏切り」って全然次元が違う話だと思うのよね。実際収二郎は藩から追われてるわけで武市さんに謝ってどうこうなることではないし、逆に以蔵は武市さんと以蔵の間だけの問題ではあるけど、武市さんよりも勝先生を選んだ・・・ってか、武市先生の元に戻らないことを選んだのは以蔵自身じゃないのかと。冒頭で海軍塾の三人が「武市さんの元を離れてよかった」とかなんとかふざけたこと抜かしてたもんで頭沸騰したんだけど、その流れから勝先生を護衛する以蔵の図になったもんだからてっきり以蔵もまた武市さんの元を離れたんだと思ったのね。それが以蔵の「意思」なんだと思ったの。なのになんで収二郎と並んで謝ってるのかと。そもそも以蔵を武市さんから引き離したのは龍馬だろ?直前に戻ってもまた人斬りさせられるだかだから戻らないほうがいいとか言ってませんでしたか?以蔵がやっぱり武市さんの元に戻りたいと言ったんだとしても、武市さんに対するケジメをつけてから新しい道を探したいと言ったんだとしても、本当に友達であるならばここはもう二度と会わないほうがいいって言うべきだったと思うよ?。おまけに収二郎と以蔵をまとめて「駒扱い」発言ですからね。はっきり言ってさ、収二郎と以蔵がバラバラに武市さんに詫び入れてたら武市さん許してくれたんじゃないかなーとか思うわけですよ。右腕だと思ってた収二郎と何があっても自分を慕い続けると思い込んでた可愛い以蔵、武市さんにとって“こいつだけは”と思ってた二人が『揃って』武市さんの前にいたから武市さんの怒りが2倍になっちゃったってことはないですか?と、龍馬が駒だのなんだの言って武市さんを煽るから武市さんも引くに引けなくなっちゃったってことはないですか?と思うわけ。つまり龍馬のせいじゃねーのかと。
少なくとも以蔵に関しては間違いなく龍馬のせいだよね。だって整理するとさ、龍馬と呑んでた時点では、以蔵は武市さんの命に背いて勝先生の護衛をしてたわけだよね?。その時点では以蔵にはちゃんと居場所があった。問題はその先。龍馬に言われて武市さんを裏切り、龍馬に言われて収二郎さんを助け、龍馬が煽ったせいで武市さんに「飼い犬」と呼ばれ「おまんは好きにすればいい」と突き放され女んとこに逃げ込むのはいいですよ。そこまではいいんだ。そこへ何やら以蔵を捕まえにドヤドヤ人がやってきたのはどういうことなんですか?。わたしは吉田東洋暗殺の疑いがある収二郎の逃亡に加担した罪で追われることになってしまったんだと思ったんだけど、だとしたら龍馬も同様じゃねーのかよと。人斬り以蔵には追われる理由がいっぱいあるわけだから収二郎のこととは関係ないのかもしれません。でも武市さんに会ったあの時点ではそんなことはまだ分からなかったよね?だとしたら龍馬は武市さんに捨てられた以蔵を責任もって勝先生の元に戻らせるなり海軍塾に連れていくなりすべきだろうが。だって龍馬が以蔵の仕事を邪魔したせいなんだから。なんで以蔵は女のところでウジウジしてて龍馬は海軍塾で腋毛見せてんのさ。恐らく以蔵が勝先生の護衛はもうできんとか言ったんだと思うよ?武市さんの元へは戻れないけどだからって勝先生のところに行くわけにはいかんとか言ったのだろう。そうであったとしてもそんな状態の以蔵を放っておいていいわけないでしょう。以蔵のためを思ってるのならちゃんと関わってやれよと。もう今完全なる龍馬アンチ状態なんでそう見えるのだとは思いますが、覚悟を持って土佐に向かう武市さん、投獄された収二郎、窓から逃げる以蔵に対して、龍馬一人居心地がよく安全な場所に戻ったとしか見えません。いろんな思いを振り切るために身体を苛めてるつもりなのかもしれませんが、わたしにはやることやって大満足してるようにしか見えませんでした。あームカつく。

そういや龍馬にカルチャーショックを与え脱藩という道があることを教えた久坂さんは長州藩を率いてたった一藩でも攘夷ヒャッホイ!!って実行したんだよなー。そこいらへん龍馬はどう思ってんだろうね。