永瀬 隼介『罪と罰の果てに』

罪と罰の果てに

罪と罰の果てに

うーーーーーーん・・・・・・よくも悪くも永瀬さんだなぁ・・・。ある兄妹を、兄妹に捕らわれ魅せられた人々の視点で描いた物語なのですが、人物設定は悪くないもののそれぞれの掘り下げがほとんど為されてないと思いました。幼い頃→中学時代→大人になった現在と結構長いスパンを描いているものの、兄妹だけでなく登場人物全員“現在に至る過程”が見えないんだよな。回想や他人に語るという形で説明は為されます。でもそれはそのまんまの意味での“説明”でしかなくて、つまりあらすじと変わらないわけです。“俺は必死で努力した”と言われても“この人は努力をしてこの地位を掴んだ”という情報でしかなく、努力の中身が感じられないのです。だから物語が“あらすじ”程度にしか読めない。その一方で、幼い兄妹が過ごした宗教施設や、アフリカの悲惨さ、裏トレーディングの描写はさすがの描写力なのです。現在の兄妹を作った“理由”は文句ナシだけど肝心の兄妹の“中身”はその反対。なまじ前者がいいだけに余計に後者が気になってしまうんだよなぁ。あともう少し人物に深みがあればかなりの傑作になったと思うだけに、残念です。