吉田 修一『元職員』

元職員 (100周年書き下ろし)

元職員 (100周年書き下ろし)

ハードカバーですが文字数自体は少なく、体感的には短編と中編の間ぐらいの感じだったのですが、「職員」がいとも簡単に人生の坂を転がり落ちていく様がドライに描かれていて恐ろしかったです。公務員や教員、果ては警察官や自衛隊員などいわゆる税金から給料を貰ってるありとあらゆる人達の犯罪が紙面に出ない日はないと言っても過言ではないほどの昨今ですが、例えば子供の学費や治療費を工面するためとか知人の連帯保証人になってしまったためとか何か明確な理由があるならまだしも、そこに至る経緯はこの本で描かれているようにほんの些細なことが多いのだろうし、それを防ぐための作業をすることを厭う風潮があるんだろうなぁと改めて思いました。犯罪を犯した当人は当然として、この物語で言えば確認を怠り続けた上司も悪けりゃ気付いていながら金をバカスカ使いまくる妻も悪い。みーんな悪人です。
主人公が異国で逃亡生活を続けることを選ばず、腹をくくりシラを通しきろうと決意して帰国することを選んだのは希望であり絶望であると思った。