トム・ロブ・スミス『チャイルド44』

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

タイトルの意味が明らかになった瞬間ブルっと奮え、物語の構図というか、冒頭の描写の真相(逆の視点)が明らかになった瞬間の“そういうことか!!”と驚かされ具合は久々の感覚でした。あちらこちらでこれはちょっとすごいという評判を目にしたので手にとってはみたものの、“スターリンの恐怖政治下にある旧ソ連”という時代設定を確認してこれは苦手なタイプっぽいなと一旦諦めたのですが、それでもなぜか諦めきれず、安いからダメでもまぁいいか・・・と読み始めてみたらビックリですよ!集中しすぎて2駅乗り越したのはほんと久々(1駅なら1年に5回ぐらいあるんだけど・・・)。この本の引力恐るべし。しかもこの人まだ29歳でケンブリッジ卒(主席なの!?)だってんだもんなぁ・・・なんかすごいわ。装丁もカッコイイし。
あの時代のソ連という国だからこそなしえた犯罪というだけでなく、飢えや貧困や寒さ、そして権力によって支配される人々の暮らしってのはいくら想像してみても想像しきれるものではないのだけれど、順風満帆な生活を同僚(部下)の嫉妬によって奪われただけでなく、妻との関係も、両親との関係も偽りであることを知り破壊された主人公のレオが再生する物語は、国も時代も関係なく惹き付けられたし、レオの世界観が変わったことで同じ“国家”に押さえつけられながらも前半と後半では必死で生きる人々の顔つきが違って見えるのも面白かった。ラストエピソードがすごく効いていて、お陰でサイコサスペンスなのに読後感は悪くなかったです。
この先、内容に触れてます↓




希望があるラストではあるんだけど、それに加えて猫殺しを躊躇わないアンドレイの娘を脅威として匂わせるあたりが上手いと思った。あからさまにではなく、そういうのが好きな人はそう取ればいいんじゃない?ぐらいのスタンスなのが好ましかったです。作者の名前を忘れないようにしなくちゃ!