新感線プロデュース『いのうえ歌舞伎☆號IZO』@青山劇場

わたし新感線の舞台を見に来たんだよな・・・・・・?って思わず考えちゃうぐらい真っ当な舞台でした。いや、いつもの新感線が真っ当じゃないってことではないのですがw、岡田以蔵という人物についてある程度の知識はあったし、家にあった池上正太郎の「人斬り以蔵」を読んでから観たんで笑いが少ない舞台なんだろうとは思ってましたが、それが予想よりはるかにシリアスで哀しい物語だったんでちょっと驚きました。ほんと真っ当に真摯に以蔵という人物に向き合ったって感じ。ていうかよくよく考えたらメインキャストほぼ客演だし、粟根さんも右近さんもさとみさんも極少出演時間の中で持ち味を存分に発揮してはいるけどやっぱり古田さんやじゅんさんや聖子さんがいないと新感線エキスが薄まるのは確かだよな。あと “いのうえ歌舞伎”と銘打ってるからにはケレン味を期待してしまうのだけれど、とことん地味な舞台なのでまったくナシ!と言い切っていいぐらいだった。新感線(いのうえ歌舞伎)を観終わった瞬間にいつもドッバー!と感じるカタルシスもなかったし・・・。でもですね、だからと言ってこの舞台がダメかと言うとそうじゃないのですよ。観終わった瞬間はやるせなさでいっぱいになって涙目でどよーーーーんとした気分になっちゃって、飲みながら感想語り合いたい!とはとても思えないんだけど、次の日も次の日も一瞬の隙間にIZOのことを考えちゃって、すごく後を引くんだよな。これからこういう路線に進むって言われるとちょっとモニョるけど、朧みたいなのも金田一みたいなのも、そしてIZOみたいなものもできる新感線、いのうえさんってやっぱスゲー!ってしみじみ思いました。


以下、内容に触れてます


幕末の土佐で足軽をしていた岡田以蔵は後に尊皇攘夷を唱え土佐勤王党を率いる武市半平太と出会い、剣術を学ぶうちに武市への忠誠を誓うようになる。土佐藩主・山内容堂の命により京に上った武市に従い以蔵もまた京に上ったが、昔なじみの坂本龍馬や幼馴染のミツと再会し楽しい時間を過ごすのも束の間、武市らの思想の妨げになる要人暗殺に携わるようになり、間もなく「人斬り」として恐れられる存在となる。坂本龍馬の頼みで武市とは思想が異なる勝海舟の護衛を引き受けたことを武市、そして武市と義兄弟の契りを交わした田中新兵衛に叱責された以蔵は以前から抱えていた新兵衛への嫉妬心を爆発させるが、次第に武市に疎まれ遠ざけられ、孤独を深める。やがて山内が立場を変えたことで武市は囚われ、数々の暗殺の事情を知っているとみなされた以蔵は命を狙われる羽目に。ミツと再会し一瞬の幸せを過ごした以蔵だが、ついに捕らえられ、土佐に戻って全てを明らかにした後、処刑される。
なんかちょっとうまくまとめられないのですが、侍に、犬でなく人になりたいと願い必死で生きた若者が、自らにとっての「天命」に従い、利用され、そして棄てられた・・・そんな物語です。


最初に剛くんの第一声を聞いた瞬間はうわー弱ってんなぁ・・・と思ったんだけど、わりと早い段階でその声に慣れて、途中からはむしろその若干細くて高いかすれ気味の声が以蔵の野良犬っぽさをより一層引き出してる感じがした。とは言えかなり前の方の席で見た時でさえ台詞が聞き取れない(声量が小さいせいでなくかすれ声の早口のせいで)箇所があったんで、ここは評価が分かれるところだろうなぁ。観る前は以蔵ってもっと目があっただけで威圧されそうな背が高くて尖った感じの人を想像してて、剛くんっていわばその対極のビジュアルなんだけどどうなんだろう・・・と心配な気持ちがかなりあったんだけど、剛くんの以蔵はアリ!だわ。前半はそれこそキャンキャン吠えるだけの強がってる小犬で、それが人を殺すことを覚え享楽の味を覚えそして嫉妬という感情を覚えるうちに目がどんどんギラついて獣の匂いを纏い、武市に棄てられた後半はまさに捨て犬のごとき飢えと孤独がひしひしと伝わってきて、ほんとまさに「犬」って感じなの。で、以蔵ってバカなんですよね。武市先生や新兵衛、龍馬の話してることが全くわからない頭の悪い子なの。武市先生に嫌われたくないからと一生懸命考えようとするんだけど何が分からないかすら分からないんじゃないか?と思うほど幼くて愚かなのね。そんな以蔵の中にわたしは虚無感を感じました。多分、以蔵本人は気付いてないであろう虚無の心。それがなんかすごく哀しくて切なくて可哀想で・・・そんな以蔵像であったから、これはむしろ剛くんのように華奢で小っちゃくて賢そうでない(ごめん剛くんw)俳優さんならではだなと。
で、そういう “以蔵像”は充分感じられはしたんだけど、でも以蔵という人物を思う存分掘り下げたかというとそこまではいかなくて、内面の描き方はちょっと物足りなかったかなという気がする。単純ではない時代背景の中であれだけの人数の人間関係を限られた時間で描くためには簡潔にしなければならないのは分かる。でも、武市を先生として無条件に信頼し崇める犬らしさは文句なしだったんだけど、一番最初に武市の組織に内通者として入り込んでた戸田?だったかな・・・京で遊びを教えてくれた先輩のポジションにいた人を斬り殺した=以蔵にとって初めての人斬り、しかも信じてた人を斬ったことの苦悩とか葛藤とか、ミツに対する想い、ミツを失った瞬間の、武市に裏切られた上にミツを巻き込んでしまったことを知った後の以蔵の気持ち、そういうのをもうちょっと描いてほしかった。全体的に駆け足で文字通り疾走したって感じの舞台だったんだけど、ところどころでもうちょっとだけタメて以蔵の胸の内を表現してくれたらもっともっとラストシーンの言葉が生きたかなーと思った。
とは言え、ミツ(みっちゃん)と祝言の真似事するシーンはすごくよかった。よかったというか、切なくて胸が押しつぶされそうだった。二人ともこれがどういう意味なのか分かってて、いまどういう状況なのかも分かってて、二人ともこれが本当のことであったならどれほどいいのにって思ってたと思うんだけど、そういう素振りも表情も見せずにほんとに照れくさそうに嬉しそうに三々九度する幼い(さほど幼くもないんだろうけどそう見えた)二人がほんとに切なかった。この後どうなるか知ってるだけに・・・。ミツは以蔵よりもちょっとは賢い子だと思うわけで、自分が仕出かしたこと(以蔵に頼まれ新兵衛の刀を取り替えた)がどういう結果となったのか分かってるだろうし、そんな自分が以蔵とともに幸せになることなんてできっこないし、なにより以蔵が侍としての自分を捨てられるわけないって分かってたんだろうな。でもあの瞬間、頼みを聞いてくれたらこれからずっと一緒に生きていくって以蔵が約束してくれた瞬間、恋心で周りが全く見えない状態になっちゃったんだろう。ミツが寅之助の店を風邪で1週間ばかし休んでた間、二人は一緒にいられたのかな。そこでどういう話があって、どういう行為があって、そして離れたのだろうか。ミツの中ではその1週間で以蔵への気持ちに決着をつけて、半ば諦め交じりの気持ちでボンボンwと結婚したんじゃないかな。で、あれから幾何かの時間が経って笑って冗談にできるぐらいまで自分の気持ちを落ち着かせた状態で、今なら縋ったりせず最後の思い出をちゃんと作れるって気持ちの整理をつけた上で以蔵に会いに来たと。最後のお願いとしてあのおままごと祝言の話を持ち出したんじゃないかな。もちろんあの酒の中に毒が入ってるなんて知らないわけだけど、水を飲めば助かるかもしれなかったところを飲まなかったのはみっちゃんの意思だと思うし、やっぱり好きな以蔵の側で、おままごとであれ以蔵の妻として死にたかった、死ねてよかった・・・ってとこもあるのかなー。死ぬことで自らを罪を罰し死ぬことで最後の最後にやっぱり好きだと想った以蔵への想いを貫き通した・・・ってことなのかなーと思った。そしてあの場でみっちゃんの後を追わなかった以蔵は、侍として死にたかったってのもあるんだろうけど、「なんちゃなくなってしまった」自分にとってみっちゃんとともにすごした故郷での想い出が最後に一つだけ残ったものであって、捕らえられることで自分の力ではもはや戻ることができない故郷に戻り、みっちゃんの名前の花に、みっちゃんに包まれたかったんだろうな・・・と。それが「天ら見ずに山だけ見ていれば良かった…」ということなんだろうな。
そんなミツを演じた戸田ちゃんですが、剛くんがイメージに合わないと心配したよりもはるかに大丈夫かよ・・・って不安だったんですよね、見る前は。それがびっくり!すごく良かった。これは嬉しい誤算だったわ。テレビで見る限りではあの低い声が好きじゃなくて、果たして舞台で声が後ろまで届くんだろうかって思ってたのですが、ほんとよかったんだよな。気も、多分身体も強いであろうミツという女の子にあの声と割と高めの身長が合ってたと思うし、いい意味で田舎っぽい感じもすごく合ってた。剛くんもそうだけど、いのうえさんのキャスティングすげーわやっぱ。舞台度胸もありそうだし、舞台の戸田ちゃんは次もぜひ見たいと思った。

客演の中でわたしのお目当ては池鉄さんと圭哉だったわけですが、まずですね、ヅラ被った(髪がある)圭哉がどえらいオトコマエ!!!!!・・・はさすがに言いすぎだけどw、とにかくかなりのオットコマエっぷりでビビッたw。真剣にビビったwww。田中新兵衛という人物が聡明というか理知的というかかなりイケメンとして描かれてまして(いや、特にイケメン扱いされるわけじゃないんだけど確実にイケメン設定だったと思うわ!)、以蔵と同じく「人斬り」と恐れられる人物なのに以蔵と真逆の存在として描かれていて、ほんとちょうカッコイイの!!あの武市が頭を下げて義兄弟の契り?を交わして欲しいと頼むぐらいの人物なんだという妙なオーラがあった。しかもしかも殺陣もあるんだけど!!くるくると回りながら体重が感じられない(これはこれで悪くないよ)のが剛くんの殺陣だとすると圭哉の殺陣は体重を乗せての一刀両断って感じで男らしさムンムンでw、なんかぽわ〜ん(はぁと)てなったわ。あの人ほんとはハゲなのに!!!。勝海舟の護衛をした以蔵を叱責するシーンとか切腹シーンとか魂は熱いんだけど凛としててめったくそ男前なの!!あの人ほんとはハゲなのに!!!!!。わたしの中でIZOという舞台がこんなにも後を引いているのは圭哉のオトコマエっぷりによるところが一番大きいかもしれませんw。
そんでそんで、そんな圭哉とは違った意味でまたオットコマエだったのが池鉄さんの龍馬なのよ!!!わたしこれまで(平均的日本人レベルで)いろんな龍馬見てきたけど、池鉄さんがいっちばん坂本龍馬のイメージに近かったの!!!顔が濃くて清潔じゃないんだけど不潔じゃなくて、フットワークが軽くて言葉も一見軽いんだけどでもなんか惹かれてしまう・・・すごくチャーミングな龍馬。そんでもってダンスうめええええw足とかガシガシ上がってて、いやー池鉄まじでかっこいいわw。伊達に花園ゆり子としてイケメン兄弟の一員やってなかったっつのな。少ない笑いのシーンは総じて龍馬が絡むだと言っていいぐらいなんで、ほんと池鉄・龍馬の存在は癒しだった。勝海舟の護衛を以蔵に頼むシーンが特に可愛かったw。まぁあれが悲劇のキッカケではあるんだけど・・・。
逆にもったいないなーと思ったのが千葉哲也さん。武市の半歩後ろに控える姿だけでもクールな色気が出てたけど、新感線に染められた千葉さんが見たかったんだよなー。
田辺さんの武市は、田辺さんの顔が基本薄ら笑いを浮かべてる感じじゃないですか(けなしてないよ!これはこれで好きよ!)。だから酷薄そうというか、人をランクづけしてる人なんだろうな(以蔵は間違いなく最下層)って感じが見るから伝わってきて、武市だなとw。これ褒めてますよ!。でも裁きのシーンで以蔵の目の前で容堂にバカにされレベルは違えど以蔵と同じように武市もまた誰かのために働く犬であったことが明らかになり、そんな武市を見て復讐の気持ちからやはり自分の神は、自分の天は武市であったことを改めて思い直した以蔵を見る目がすごく清廉で、自分達の存在を以蔵が言い切っちゃったことも納得し許す・・・許すとは違うか・・・なるべくしてなった結末を受け入れる潔さみたいなものを感じた。そこらへんの状況把握能力と判断力の高さが武市をカリスマたらしめてたものなのかなと。なんて頑張って真面目に感想を書きましたが、一番素敵だったのは冒頭の胴着?姿の若かりし武市先生の姿だったことを記しておきますw。
そうそう、素敵だったといえば粟根さんは勝海舟の時よりも、さらし首にひゃあああっ!って驚く町人のほうが素敵でしたw。右近さんのキンタマ公はキャワだった(えー!?)。


ちらほらと感想を読んだところ思いのほか多用される映像に不満の声も結構あるみたいだけど、わたしは悪くないと思った。この舞台はかなり場面転換があるんですよね。京で暗殺してたと思ったら次のシーンは船の上みたいな感じでほんとドラマとか映画ぐらい軽々と場面がスイッチされるんだけど、それをうまいこと映像で表現して(繋いで)たと思う。吉原御免状の時セットチェンジの暗転が多すぎたのが不満だったんだけど、今回はこれだけ場面転換があるってのにストレスほとんど感じなかったから。むしろストレスを感じたのは殺陣の方だったなぁ。色がほとんどない舞台の中で血の赤い色を強調したかったんだろうなと思ったんだけど、結構凄惨に血がブシュブシュ噴き出るわけですよ。それは好みではあるんだけど、血が噴き出る装置の前でそう見えるポーズを取るってのがまずありきになっちゃってるから殺陣のスピードがそこで削がれちゃってるのが目についた。殺陣そのものも今回は暗殺剣、まさに人を斬る物語だからか、いつものように剣を横に斜めに払うようにしてバッタバッタと踊り走るように斬るというよりかは一度身体に当てて身体に刀を差し込んでから押したり引いたりして斬るって感じで、いつもよりかは流れが美しくなかったんだよな。でもこれ難しいところなんだろうなぁ。ああやって血が噴き出る様を見せないと“人を斬れば血が出る”って視覚的には伝わらないし人の身体だってそうそう簡単に斬れたりはしないわけだし。実際下横目の人を藁茣蓙越しに突き刺し、その返り血を浴びる以蔵ってのはほんと凄みがあってゾクっとするような好シーンで、いつものような殺陣ではなかった意図は伝わってきたの。でもでも新感線を好きな理由の一つがいい意味で劇画チックな殺陣だったりするんで、うーん・・・IZOという舞台としてはこれでいいんだろうけど、もうちょっとだけでいいから爽快感があるカッコイイ殺陣が見たかったかなーという感じ。
セットはすごい。特に1幕のラストだったかな・・・以蔵が乱入してきて名乗りながら滅多斬りにするシーンのセットがなにがどうなってるのかわかんないほどぐるぐる回ってた。


最初に書いたように、今でも心の中でズーンとこの舞台が居座ってる気がします。物語が物語だし決して面白い舞台ではなかった。でも確実に残る舞台だと思う。ほんと新感線の新境地というか、新たなステージに上ったな・・・と。今回劇団員の出演が少なくて残念だったんだけど、古ちんやじゅんさん聖子さん抜きでこの舞台を作った新感線が、次の五右衛門でどれだけこの余韻をぶち壊してくれるのかそれはそれで楽しみだなw。