木宮 条太郎『占拠ダンス』

占拠ダンス

占拠ダンス

ある日の朝、邦和信託銀行神田支店は開店時刻になってもシャッターが開かなかった。一社員の暴走かと思われた銀行占拠は、実は周到に計画された前代未聞のストライキだった。 たった一人の占拠犯は銀行の恥部がつまったデータを武器に銀行に交渉を持ちかけ、交渉担当としてかつてともに汗を流した同期の行員を指名する。


職業モノというか業界モノを読むたびに、ストーリーの面白さに関係なくみんな大変な仕事してるんだなぁ・・・と小学生みたいなことを思うわけですが、特に金融業界のハードさは異常だよな。・・・と言うと高い給料貰ってるんだからそれぐらい当たり前だって反論されるわけですが。著者は金融機関勤務経験者だそうで、労働環境の苛酷さももちろんなんだけど、働く人間の描写が妙に粘着質で、特に占拠されてる銀行に他支店の人間が面白半分で電話かけて回線パンクしちゃったってエピソードがなんというかもう、ダメっぷりを見事に象徴してて、中にいた人ならではの妙なリアリティというか、怨念がこもってる感じがしました。
ストーリーは途中までは結構緊迫感があったんだけど、占拠犯の素性が明らかになって動機というかこんな行動を取った背後にあるものが明らかになったあたりからどんどんとエンターテイメント度が増してチープになり、結局ちょっといい話に着地してました。ホラサス大賞特別賞を受賞した前作でも思ったんだけど、この人って結構ドライというかキツイ描写をするくせに人間関係においては笑っちゃうほどベタな設定を入れてくるから、どうもチープな感じがするんだよなぁ。でもそれが妙な魅力になってて、嫌いじゃないです。