笹本 稜平『恋する組長』

恋する組長

恋する組長

私立探偵として探偵事務所を開いている“俺”のお得意さんはやくざと悪徳警官。好き好んでそんな人種と付き合ってるつもりもないが、これも飯の種と割り切って、時には電話番の由子を巻き込み、持ち込まれた奇妙で面倒な依頼を片付けていく。


登場人物がほぼヤクザと悪徳警官、そして半分ヤクザな私立探偵。それなのに、描かれる物語はたった一人の息子への愛情、ペットのワンコへの愛情、そして優しくしてくれた名前もしらない女性を想う気持ち・・・と、怖い人だって思い悩むことは普通の人となにも変わらないよね!という物語です。ちょっと違うけど。
この手の話を読むたびにいつも思うのですが、私の中でハードボイルド探偵小説は探偵が命なんですよ。探偵を取り巻く環境に多少のオリジナリティがあっても、ストーリー展開には大差があるようなものではないわけで、何を楽しむかというといかに探偵に惚れられるか、だと思うのです。で、この物語の探偵さんですが、顔が見えない。姿かたちが全く浮かんでこない。名前も「所長」としか呼ばれないんであえて描写をしなかったということでしょうが、頑張って想像してみてもちっとも形にならないんだよな。電話番の女とか親友の大卒インテリ眼鏡ヤクザはちゃんと浮かぶのに。性格や生活環境だけでなく、ビジュアルも探偵の重要な要素だと思ってる私にとってはすこぶる物足りない!。最近、こういうこと(探偵だけぼやけてる)結構ある気がするんですけど、流行ってんのかな。