大崎 梢『サイン会はいかが?』

さほど売れているわけでもなさそうな書籍の取寄せ依頼が同時期に4件。取寄せた客に連絡を入れると4人ともそんな覚えはないという。同じことが2回も続き・・・「取寄せトラップ」、社会科の郊外学習で成風堂を訪れた一見本屋嫌いの小学生はその後も度々成風堂に現れるようになるが、巷で問題になっている少女連れ去り犯の疑いをかけられ・・・「君と語る永遠」、歓迎会の席上で突然“ぼくは、成風堂で、恋をしました”と発言したバイトの金森くん。成風堂で知り合った少女がくれたものは雑誌の付録だった・・・「バイト金森くんの告白」、若手人気作家の熱烈なファンの素性を明らかにしてくれた店員がいる書店でサイン会を開きたい― そんな話に名乗りを上げた成風堂だが・・・「サイン会はいかが?」、馴染みのパート店員に見せようと封筒に入った写真を持参した常連客。だがそのパート店員はつい先日やめてしまった。落胆した常連客は店のどこかに封筒を忘れてしまい・・・「ヤギさんの忘れ物」

しっかりものの店員・杏子と本屋限定の名探偵アルバイト・多絵による成風堂シリーズ第3作。前作がまだ2作目だってのに早くも成風堂を飛び出し、一応本屋が舞台とはいえ殺人を扱ったりしたもんで、次もそんなだったらこのシリーズもういいかな・・・と思ってたのですが、ちゃんと原点に戻ってくれました。ひっくり返るような驚きには出会えないけど、本屋限定というからにはこれぐらいの日常に転がってる小さな謎でいいんですよ。本屋で殺人事件が起きたなんて聞いたことないもん。表題作以外はどれもほんとうに些細なことというか、気にはなってもそのまま流そうと思えば流せるぐらいの謎だったり事件だったりするんだけど、そこをあえてスッキリさせたい気持ち、そのちょっとした好奇心ってのに共感できるのがこのシリーズの肝だと思うし。
どの話も付録だったりブックカバーだったり本の中身だったり、小道具の使い方が本屋ならでは、本屋(本好き)でなければ気がつかないようなもので、そこらへんは「配達あかずきん」以上と言えると思う。これまでで一番面白かったです。