こまつ座 第八十一回公演『私はだれでしょう』@紀伊国屋サザンシアター

こまつ座。エレベーターのドアが開いた瞬間に紺色の法被を羽織った人がワラワラいらっしゃって、ニコニコ笑顔で「ようこそいらっしゃいました」って言われまくるのにはビックリしました。なんかやたらとフレンドリー。こまつ座っていつもああいう雰囲気なのでしょうか。観客層もあたしがよく行くような舞台とは違って結構高め。50代ぐらいの会社帰りのサラリーマン風の人や60代ぐらいのご夫婦などなど、なんていうか大人な観客層でなんだか新鮮でした。あとは蔵之介ファンらしきお姉さんとママンの組み合わせね。


内容に触れてます。



敗戦後間もない日本。日本放送協会NHK)の片隅にあるラジオ番組『尋ね人』の脚本班分室には離れ離れになった肉親や知人を探す人々の声が投書として届き、伝説の元アナウンサー川北京子(浅野ゆう子)、同じく元アナウンサーで劇作家を目指す山本三枝子(梅沢昌代)、庶務雑用担当で、実家は古本屋を営む脇村圭子(前田亜紀)の三人が、投書の山を一枚一枚読み、ラジオを通じて尋ね人に声を届けようと日々奮闘している。同室に放送用語調査室主任の佐久間(大鷹明良)がいて、連合国軍のCIE(民間情報教育局)の指揮下にあり、新たなCIEのラジオ担当官として日系二世のフランク馬場(佐々木蔵之介)が就任。分室には組合費の徴収がてら、組合員の高梨勝介(北村有起哉)も頻繁に出入りしている。そんな分室にある日、サイパン島の生き残りであり記憶を失った男・山田太郎川平慈英)が紛れこみ「ラジオで私を探して欲しい」と訴たことがきっかけで『尋ね人』の中に『私はだれでしょう』のコーナーが誕生。山田太郎は誰なのか?それを探しながら、それぞれの悩みや体験が語られていく。そんなストーリー。


ピアノの生伴奏が付いてたし、音楽劇と言えばいいのでしょうか、予想以上に歌が多かったな・・・という感じなのですが、それを差し引いても長い!とにかく長い!!6時半開演で15分休憩挟んで終演が10時ですから。全体的にコメディというか笑いどころはいっぱいあるし、絞り込まれた登場人物達にはそれぞれ抱えた事情があってちょっと泣きそうになったりもしたし、内容は充実してて面白かったことは確かなんだけど、ほんと長すぎ・・・。これがこまつ座クオリティなのか。

なぜあたしが初こまつ座に挑戦しようと思ったかと申しますと、そりゃ当然有起哉が出るから!でございます。有起哉の役は元々どっかの会社で労働闘争の先頭に立ち成果を上げてNHKに引き抜かれた労働闘士でして、やたらとテンション高くてすぐ拳を上げて「○○はんたーい!」とか「○○ばんざーい!」とか言う暑っ苦しい役なのですが、とにかく酔っ払い演技上手すぎw。泥酔して椅子から転がり落ちてしゃくとり虫みたいなカッコになるシーンがあるのですが、ほんと上手すぎw。そして可愛すぎw。リアルでこんなんなってる有起哉が目に浮かぶ。そんな有起哉演じる高梨は、ストライキを実行したりと会社に対して断固として権利を主張する戦う男なのですが、その実、特攻隊の生き残りというか命令待ちしてる間に戦争が終わってしまったという過去を持つ男でもあるわけです。死んでいった仲間も沢山いただろうし、特攻できなかったというその思いを闘志に変えてたんだろう。死ぬことが誇りだと信じて疑ってなかった高梨は、京子の弟が特攻攻撃は無意味だと訴え自決したということを知り、山田太郎と出会ったことでまったく逆の教えがあったことを知る。それまではそれこそ駆け足ぐらいの勢いだったから、ハンチング(これがまたお似合い)を目深に被って足取り重く分室を出て行く背中がちょっと小さく見えて、なんだか胸が痛かった。
高梨だけでなく、京子さんは弟の死、三枝子さんはいくら書いても戯曲が評価されないこと、圭子ちゃんは焼けてしまった実家(古本屋)の再建、佐久間さんは子供3人抱えて映画館(映写室)で暮らしていて、フランクは生まれ育った村を救うために犯罪に手を染め、日本とアメリカの板ばさみになる・・・とみんなそれぞれ事情を抱えてるんだけど、でもけっして後ろ向きではないし、暗くもない。それがあの時代の日本を包んでる空気だということもあるだろうし、一歩間違ったらアホなんじゃ・・・な山田太郎の明るさに寄る所が大きいのですが、もうね、本気で慈英うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!。柔道も空手も剣道も達人で英語もペラペラでタップダンスもプロ級という訳分からんキャラなのですが、「吾主婦」のマスターゆきおバリにうぜーw。でもそれが救いというか、冷静に考えたら結構ヘビーな人生を送ってるし、山田太郎として過去を探してる間にも結構酷い目に合ってるんだけど、そんなふうには感じさせなくて、ほんと憎めない。山田太郎の魅力(人間性)がこの舞台の肝だったと思う。まぁ確実にウザイんだけどw。
あたしが有起哉を好きな理由の一つがスタイルがいいところでして、スラッとしてて手足が長くて舞台栄えするのが常なのですが、いやービビった。有起哉がぜんっぜん目立たない(スタイル的に)ほど佐々木蔵之介カッコエエ。有起哉がダルダルのシャツにネズミ色のパンツを長靴にイン、おまけに首からタオルとカッコよさのかけらもないスタイルなのに比べて(なんつって、それでも有起哉は素敵なんですけどエヘヘー)なんたって軍服ですからね。ピッチリ七三wヘアは微妙ですが、有起哉が霞むほどのスタイルなんですよこれが。軍人さんだからキリっとしてるし、ビジュアル的には有起哉完敗ですよw(休憩時間にお嬢さんが「組合の人さー、名前(本名のことだと思われます)はカッコいいのに顔長いよね。名前と顔が合ってない!」と力説してまして、笑いたいような泣きたいような複雑な気持ちになりました)。そんでもって後半はシンプルなスーツで前髪下ろしたラフなヘアスタイルで登場。いや、マジでカッコいいぞ蔵之介。あたしの後ろの席にいた蔵之介ファン親子(これは絶対確実!)が二人揃ってメロメロなため息ついてましたもんw。予想よりも蔵之介が占める割合は少なめかな・・・とは思いましたが、2パターンの蔵之介が見れる上に歌もちょっと唄うし(ギリギリ唄えてたw)ダンスもあるし(振りは合ってるんだけど一人だけ明らかに動きがギチギチしてたwww)、結構楽しめました。
それから特筆すべきは前田亜季ちゃんがかなり良かったなということ。前田亜季といえばバトルロワイヤルの映画であたしの記憶はストップしてるわけですが、このメンツの中に混じって全然見劣りしてなかった。真面目で健気で親思いでこの子がいなかったら分室は回らないという娘さん役で、清純そうな感じがピッタリだったし、セリフも聞き取りやすかったし歌も結構上手くてこんなに演技できる子なんだとちょっと驚いてしまいました。


今こうやって自分が思ったことを自由に書き散らかせるということがどれほど幸せなことなのか、感想文を書きながら考えさせられます。それから、相手に対して真摯に向き合うことの大切さ。今、情報を伝える場においていろんな問題が起きているけど、自由に伝えられる時代だからこそ送り手側も受け手側も責任と自覚を持たなくちゃならないんだよなとちょっと真面目なことを思ったりしました。