越谷 オサム『階段途中のビッグ・ノイズ』

階段途中のビッグ・ノイズ

階段途中のビッグ・ノイズ

たった3人で活動していた軽音楽部なのに、先輩二人が問題を起こし退学処分、廃部の危機にさらされる。一人残された啓人の元へ幽霊部員だった伸太郎が現れ、強引に条件付きで部の継続を認めさせることに成功する。最大の条件は伝統ある“田高マニア”への出演。問題を起こした軽音部に向けられる冷たい視線、軽音部を敵視する女性教師、四面楚歌の状況で、頼りにならない顧問、タイプが全く違う3人のバンド仲間と共に、啓人は「一発ドカン」とやれるのか!?


この人の本を読むのはまだ2冊目ですが、もう断言できる。私この人がほんっとうに大好きです。前作を読んだ時も感じましたが、美文というわけではないんだけど、流れるような文体にとても自然な会話文でして、読みながら何も気を使わずにいられる相手といる時のような心地よさを感じるのです。ちょっとだけ年上ですがでもほぼ私と同年代らしく(この年代って案外少ない)、ちょっと上の年代にありがちなガツガツとしてたりだとかちょっと笑ってしまうような臭さもないし、下の年代にありがちな閉塞感や救いのなさみたいなものもない。本当にスッと心に入ってくるのです。実際にはこの人の文体が私に合っているだけで世代云々は関係ないのかもしれませんが。

で、この物語ですが、ベタベタの青春バンド小説です。もうほんとビックリするほどベッタベタ。物語の中で使われてる曲なんて恥ずかしくなるほどあの頃ど真ん中。グリーンデイのBasket CaseにオフスプリングのALL I WANTなんてあまりにもストレートすぎてほんと照れる。ちょっと自分に自信が持てない主人公が仲間とともに成長していくのですが、その仲間というのが、頭に血が上りやすくて口が達者なトラブルメイカーに、女子にモテモテでギターもめちゃウマなんだけど時に周りが見えなくなるイケメンに、才能はあるんだけどどこかずれてる天然なムードメイカーに、冴えない外見に飄々とした性格のバカにされてるけど一部では結構人気者な先生と、お手本のようなキャラ設定。びっくりするような展開があるわけでもなく、イマドキ感があるわけでもなく、ほんとストレートなお話。なのになんかいいんだよな。例えて言うならば“北風と太陽”の太陽みたいな感じなのです。基本は北風派な私なのに、なぜかとてもいい気分になれる。この人はきっと特別。