『噂の男』@PARCO劇場

8月28日の公演を見ました。席は舞台正面の丁度真ん中あたりの良席。休憩なしで2時間半にビビリまくってたのですが、面白かったから時間の長さは全く感じなかった。とは言えケツはめちゃめちゃ痛かったですけど。



↓↓ネタバレ含みます。




鈴木は過去の亡霊、モッシャンは笑い、アキラは・・・人気とプライド?、加藤は復讐、ボンちゃんはなんだろう、今の立場かなぁ・・・、それぞれ何かにとりつかれた男達が、そのエネルギーを負の方向に向かわせる物語。多かれ少なかれ人間誰にでもある悪の部分があからさまに描かれ、鬱憤晴らしで自分より弱い立場の人間をネチネチとイジメたり、動物を虐待したり、容赦ない暴力を振るったり、人を殺すことを考えたりと眉を顰めたくなるような(あたしはむしろ好きですが)行為のオンパレードなのですが、すぐ隣の空間では大勢の人が芸を見て笑ってる・・・そのギャップが怖かった。人を笑わせるというポジティブな行為の背後にこんなネガティブな感情が渦まいているというギャップが怖かった。
その中でもあたしが一番怖いなと思ったのがボンちゃんで、ガチホモである劇場支配人・鈴木に立場を利用され迫られ続けているという精神的苦痛は分かる。でもだからと言って初対面のボイラー技師加藤に事故に見せかけて鈴木を殺す手伝いをさせようとする神経が怖いわ。どうしてもいやなら他の劇場、他の事務所に移籍すればいいじゃないかと思うし、今さっきあったばかりの男に人殺しを持ちかけるという簡単さが理解できない。パンキチ程笑いにこだわってるようにも思えないし、いくら了承済みだからとは言え旦那に見張りをさせて本番前にその妻を抱くという行為も首傾げたくなる。でも表向きこの中で一番マトモなのはボンちゃんに思えるんだよなぁ。怖いわぁ。

この破滅の物語の中心にいるのがお笑いコンビ“パンキチ”なのですが、一度暗くなった舞台にいきなりじゅんさんとさとしが立ってる姿見て何ていえばいいのかよく分からないけど、身体にビビビッと電流が走ったみたいな気分だった。なんかいろんな感情がごっちゃになって、心がうわーーーーっ!てなった。つーかじゅんさんと並ぶとさとしやっぱどえらいオトコマエだわwwwでもネタは微妙・・・。このネタが技量は別にして文句なしに面白い!と思えるようなものだったらまだ救いがあるんだけど、ほんと微妙・・・な感じでして、それがまた後の展開の酷さを思うともの悲しい気分になる。や、頑張ってましたけどね、W橋本。ぶっ飛ぶさとしなんて素敵でしたけどね。
そんなパンキチのマネージャーが若かりし日の鈴木(現劇場支配人)。もう存在自体が痛々しい。鈴木が大切にしてるハムスターと同類というかね、モッシャンに甚振られ愛するアキラからは「俺に触れるなこのクソホモ!」と拒絶される姿に小動物的な弱さを感じました。でも意識的なのか無意識なのか微妙なところなんだけど、パンチキの二人に対して明らかに態度を変える図太さもあるわけで、実は一番たちの悪い二面性を持つのがこの鈴木だと思った。虐待されて殺されたハムスターは鈴木自身でもあるのかな。だからどれほど苛められても耐えてきた鈴木はモッシャンを殺したいと願い、長年モッシャンだと思ってた犯人が実は愛するアキラだったと知ってあれほど逆上したのだろうな。アヤメを絞め殺した後、これまで保ってた常に冷静な穏やかさを棄てた鈴木にはもう何も残ってなかったのだろうな。まぁだからといって客席に乱入していいってもんじゃないけど。
そんな鈴木を演じる“喜怒哀楽を全て笑顔で表現する男”堺さんのサービスカット「キュビズム!」は、事前にそういうシーンがあると聞いていてもちょっと衝撃だったわ。一瞬なのかと思ったらかなり長い時間「キュビズム!」だし・・・。あと俺的には圭哉との濃厚なラブシーンがごちそうさまでーす!という感じでございました。どっちも好物なもんで・・・。ていうかヅラ被った圭哉が妙に素敵に見えました・・・。大丈夫かあたし。

この中で一番理解できるのがボイラー技師加藤かな。相方を襲ったという濡れ衣をきせられ自殺した父親の仇であるモッシャンを恨み続け、ついに復讐できると思ったら相手がボケてた・・・これキッツイよなー。なんかね、やられてるのが弱者(ボケて反抗できない)であるじゅんさんで、一方的に殴る蹴るしてるのが八嶋さんってのがなんかこう見ちゃいけない感じがして、キャスティングで一番成功してるのが八嶋さんかなーって思った。前半はちっちゃくて愛想のいいお調子者という八嶋さんのイメージ通りっぽいのに、誰よりも激しい暴力を振るう・・・それもかなりの熱演でして、その豹変っぷりはちょっとすごかった。もちろん加藤と八嶋さんは違うって分かってるけど、それでも妙なリアリティがあった。ただモッシャンに言われて武藤さんの死体をロッカーから見つけたあと、加藤もやられてロッカーに詰め込まれる流れが謎。実はモッシャンはあの時点ではボケを装ってただけで、体格からしても加藤をボコるぐらい余裕だったろうけど、加藤はもうボケてしまったモッシャンをどうこうしようという気力がなかったように見えたんだよな。それなのになんで加藤まで殺してしまったのだろうか。あとボンちゃんがやられたのもうーん・・・て感じ。まぁあの時点で辛うじて正気を保ってたのはボンちゃんだけで、イッちゃった人には敵わないからだろうけど。ここだけがちょっと不満。

てっきり5人だけの舞台なのかと思ったら、中堅夫婦芸人“骨なしポテト”として追加キャストが2人登場してました。思いのほか出番が多い上に、特にアヤメ(妻の方)はかなり重要な役割を担ってて驚きました。ある意味アヤメが元凶と言っていえなくもないよな。ていうかアキラの死はボイラーの事故が原因とされているようですが、あそこまで殴ったら明らかに撲殺だと分かりそうなもんだと思うのですが・・・。アヤメがアキラにとどめを刺した事実を抱えたままで、同じ劇場で今もコンビを続けるあの2人も捩れた愛情というかね、相当なもんだよな。

ハートフルが持ち味だという福島さんの舞台を今回初めて見たのですが、普通にケラ作と言われてもそんなに違和感がないと思った。ていうか事前のあらすじと全く違ってることに驚愕。パンフには福島脚本を福島さん快諾の上で現場でケラや役者が「潤色」したとのことですが、あまりの違いっぷりにむしろノーマル福島脚本版が見てみたい。事前のあらすじを読んだ限りではみんなモッシャンが好きでモッシャンに憧れてるかのごとき設定だった気がするのですが、加藤なんてまったくベクトル真逆ですからね。まぁでもやっぱりじゅんさんは凄い。最後の最後、死体が転がる中で一人相方の亡霊と漫才をするモッシャンの姿は孤高の狂人という感じで、爽やかな後味の悪さ(どんなんだ!?)をくれました。面白かったです。


あとね、パンフに載ってる粟根さんが書いた漫画が特徴とらえすぎ面白すぎなので、買える人はぜひぜひ買ったほうがいいと思います。あの漫画だけで500円ぐらいの価値あるから、まじで。