笹本 稜平『駐在刑事』

駐在刑事

駐在刑事

取調べ中に目の前で容疑者に服毒自殺された警視庁捜査一課刑事の江波は、半ば自ら希望し、青梅警察署水根駐在所へと異動になった。自責の呪縛から逃れられない江波だが、街の人々の暖かさと自然の大きさに触れ、生身の人間としての自分を取り戻していく。


警察の花形である捜査一課の刑事が、田舎のちっぽけな駐在所に赴任する・・・ちょっと前に読んだ佐々木譲さんの「制服捜査」と設定がモロ被りなのですが、流行なのか?設定はよく似てるとは言え、あちらが探偵小説エキス入り警察小説だとすれば、こちらは山岳小説エキス入り警察小説といった感じ。100%自分のミスではないものの、それでも人ひとり目の前で死なせてしまった過去を抱える主人公が、山に登ることで癒され、そして再生していく連作短編集です。
これまで私がよく読んでいた笹本小説といえばとにかく“アクション”その一言なイメージなのですが、今作はいい意味で裏切られました。こういう身近な物語も描けるんだなーって。スペクタクルさは全くないけど(1篇だけ番外篇のような物語がありまして、それは結構壮大な風景が描かれてますが)、じわじわと心が暖かくなるような、そんな気分。
とにかく無類の犬好きな私としては、ラストの2篇、特に「茶色い放物線」は涙なくして読めませんでした。アニマルセラピーの効果や介助犬問題など社会的な要素を子供と犬との交流で優しく包む・・・犬小説的にかなりのクオリティの高さですよこれは。